こんにちは。私は相続を生業としている弁護士や税理士等の専門家で組織された協会、相続終活専門士協会の代表理事を務める江幡吉昭と申します。本連載では、我々が幾多の相続案件の中で経験した事例をご紹介したいと思っています。

 伝えたいことはただ一つ。どんな仲が良い「家族」でも相続争いに巻き込まれると「争族(あらそうぞく)」になってしまうということです。そこに財産の多寡は関係なく、揉めるものは揉めるのです。そうならないために何が必要なのでしょうか?具体的な事例を基に、考えてみたいと思います。

 この連載を読んだ方から、「争族」についてご相談をいただく機会も増えてきました。難しいのは「争族」になってしまった後にご相談いただいても、打てる手段は限られるということです。この種の問題は「いかに事前に回避策を打っておくか」がキモとなります。

 読んで楽しくなる内容ではないかもしれませんが、読者の皆さまに具体的な事例を疑似体験していただいて、皆様が「争族」になることを少しでも回避できればと存じます。

 今回は、きちんと遺言書を遺しておいても揉めてしまったケースです。

高卒で、しがないサラリーマンに終わった長男は、大学に行かせてもらえなかったことを未だに逆恨みしていた。遺産相続で身勝手な自己主張を展開、母親とエリート次男を困らせた。
●登場人物(年齢は相続発生時、被相続人とは亡くなった人)
被相続人母(東京都在住、92歳)
相続人長男(70歳、別荘地に居住、元サラリーマン、現在は年金受給者)
次男(66歳、神奈川在住、元エリートサラリーマン)
●遺産
都内の自宅(約4000万円)、現預金約2500万円 ※別荘(約1200万円)は父死亡時に長男が相続済み

 書店に足を運ぶと「遺産相続」や「終活」などと銘打った書籍が大量に陳列されています。また、主要なビジネス誌が頻繁に相続に関する特集を組むなど、中高年以上の読者には非常に関心の高いテーマと言えるでしょう。

 ところが、日本では遺言を生前に遺す人は、未だに1割前後しかいらっしゃいません。その意味では、今回登場する母は、レアなケースと言えます。母は生前にきちんと遺言を準備していたので、しっかり終活をされていた方でした。

 理由は、10年以上前に夫が亡くなった際に、相続争いで揉めたからです。原因は、相続人の1人である長男の気性の荒さでした。それでは長男は、どんな人柄なのでしょうか?

 長男は、地元の高校を卒業したあと、大学には進学せずに埼玉県の中堅企業に勤めました。一方で成績優秀だった次男は一流大学を卒業し、大手商社に勤め、海外赴任も経験しています。当然、収入面で次男の方が裕福でした。

 長男にとってはそれが気に入りません。自分は大学に行かせてもらえず、小さな会社のサラリーマンで終わってしまった。次男のように大学に行かせてもらえれば、自分だって大企業に入って、次男のように裕福な生活がおくれたはずなのに……などと、何十年も前の話をいまだに恨みに思っていたようです。

 長男は妻からも「同じ兄弟なのになぜこんなに暮らし向きが違うの?」と常々なじられており、逆恨みではありますが、積年の恨みが積み重なっていたのでした。