こんにちは。私は相続を生業としている弁護士や税理士等の専門家で組織された協会、相続終活専門士協会の代表理事を務める江幡吉昭と申します。本連載では、我々が幾多の相続案件の中で経験した事例をご紹介したいと思っています。

 伝えたいことはただ一つ。どんな仲が良い「家族」でも相続争いに巻き込まれると「争族(あらそうぞく)」になってしまうということです。そこに財産の多寡は関係なく、揉めるものは揉めるのです。そうならないために何が必要なのでしょうか?具体的な事例を基に、考えてみたいと思います。

 今回でこの連載も10回目を迎えることができました。毎回、多くのコメントが寄せられることを、誠に感謝しております。

 コメントの中には著者の私に対して、「争う族にならないように○○すべきではなかったのか?」というご指摘をいただくことがあります。我々がこのコラムに出てくる方たちに「当初」から関わっていたら、ご指摘の通り効果的な対策も打てたかもしれません。しかし、すべて終わった後にお目にかかることも多く、相談に来られたタイミングによっては対応が難しいこともあります。

 それでも本コラムを通じて、「このようなトラブルが現場で起きている」ことを皆さんに広く知っていただくことが「争族」を防ぐ第一歩になるのではないかと考えています。そういった期待を込めてこの連載を続けていくことに、ご理解いただければと存じます。

 さて、今回は、亡くなった父親に隠し子がいたケースです。

ワケあり不動産業を営んでいた父親が亡くなると、お通夜の席から相続争いが始まった。火を付けたのは粗暴な次男。最終的に長女や次女が妥協する形で「争族」は決着したが、父親の隠し子が発覚して家族は再び揺れることになった。
●登場人物(年齢は相続発生時、被相続人とは亡くなった人)
被相続人父74歳(東京在住)※母はすでに死亡
相続人長女56歳(神奈川在住、大学教員)
次女54歳(東京在住、専業主婦)
長男49歳(東京在住、双極性障害=そううつ病)
次男48歳(東京在住、ほぼ無職)
隠し子40歳(関東在住、女性、会社員)
●遺産
死亡保険金2000万円(受取人は長男)、自宅と現預金6000万円(長男が相続)、不動産管理会社の自社株(次男が相続)

 今回のケースは不動産業を営んでいた父親をめぐる「争族」の話です。

 通常、相続を巡って家族が揉めるのは、死亡直後ではありません。多くは四十九日前後ではないでしょうか。相続発生後、葬儀や社会保険の手続きなどで忙しくばたばたしますが、四十九日前後になると、一連の手続きが終わって一息付けるようになります。

 そこで遺された家族が「そろそろ銀行口座や不動産名義の変更をしよう」となり、そのタイミングで遺産分割協議書をまとめることになります。すると普段は家族にも見せてこなかった「エゴ」が丸出しとなり、取り分を巡る争いが起きてしまうのです。

 今回のケースはかなり早く、お通夜の日から「争族」が始まりました。お通夜は本来、故人の冥福を祈り、別れを惜しむ意味も込めて、遺族は夜通しお線香を上げ続けるものです。ところがこの家族の場合、お線香の香りをかき消すように、次男がいきなり、荒々しい声を張り上げたのです。