こんにちは。私は相続を生業としている弁護士や税理士等の専門家で組織された協会、相続終活専門士協会の代表理事を務める江幡吉昭と申します。本連載では、我々が幾多の相続案件の中で経験した事例を何回かに渡ってご紹介したいと思っています。

 伝えたいことはただ一つ。どんな仲が良い「家族」でも相続争いに巻き込まれると「争族(あらそうぞく)」になってしまうということです。そこに財産の多寡は関係なく、揉めるものは揉めるのです。そうならないために何が必要なのでしょうか?具体的な事例を基に、考えてみたいと思います。

 今回は元夫と実の姉に、精神的にボロボロにされてしまった方のケースです。

元夫によるモラハラから逃げるために離婚したが、実家にいた未婚の姉にも精神的に責められ続け、自ら考えることができなくなってしまった妹。相続したはずの数千万円もの遺産も従妹に使い込まれた揚げ句、貧相な施設で最期を迎えた

●登場人物(年齢は相続発生時、被相続人とは亡くなった人)

 被相続人 雅子さん(仮名、60歳、千葉県在住)
 相続人 雅子さんの息子(36歳、東京都在住)
 雅子さんの両親(すでに死亡)
 雅子さんの別れた夫(70歳、千葉県在住)
 雅子さんの姉(すでに死亡)
 雅子さんの従妹=父の妹の娘(62歳、茨城県在住)

●遺産 自宅なし、現預金250万円

 家族が遺産を巡って「争う族」になる──。その原因に金額の多寡は関係ないと常々申し上げておりますが、まさに今回のケースなどはいい例でしょう。被相続人は雅子さんという女性で、相続額は現金で250万円でした(本当は数千万円以上もあったのに、後述する理由でここまで減ってしまった)。彼女は二人の人間のせいで、不幸にも自ら思考しない性格になってしまいました。一人は夫。そしてもう一人は実の姉です。

 雅子さんは20代の時に一度、結婚しています。夫が今でいう“モラハラ夫”であったため、子供が幼稚園の時に夫から逃げるように離婚しました。当時、存命だった彼女の両親が、夫の目に余るハラスメントに業を煮やし、雅子さんと彼女の子供を連れ出したのです。

 雅子さんの元夫は彼女に手を上げるのはもちろん、度重なる言葉による叱責で彼女の自尊心を失わせるような行動を繰り返していました。夫と別居を始めた数年ののち、正式に彼女は夫と離婚することができました。

 しかし雅子さんは夫に奴隷のように扱われた経験からか、精神的に非常に弱い人になってしまいました。また、離婚後は一緒に暮らしていた彼女の親も亡くなって、独身だった姉と暮らすことになりました。

 結局、姉とは20年以上に渡って同居することになったのですが、その姉もモラハラ夫に似たタイプでした。姉は雅子さんを女中のように扱っていたのです。姉は丸の内の大きな会社に総合職として勤めるキャリアウーマンのはしりのような人で、未婚で子供もいません。姉は昼間、仕事に出ているので家事などはすべて雅子さんに任せっきりでした。