日経ビジネス12月18日号の特集「謝罪の流儀2017」では、変わり続ける社会の常識と、それに対応できない企業が受けるダメージの大きさが取材を通じて浮き彫りになった。危機感を募らせる経営者らが頼るのが、専門の知識とノウハウを持った大手弁護士事務所や危機管理のコンサルティングなどを担う総合PR会社である。取材班は今回、彼らに企業が学ぶべき謝罪の流儀や危機対応のあり方について聞いた。活況を呈する「謝罪ビジネス」の最前線とは――。
2017年は製造業の品質に関する不祥事が相次いだ。写真は、子会社で検査データの書き換えなどの不正が発覚した三菱マテリアルが11月24日に開いた記者会見(写真:竹井 俊晴)
2017年は製造業の品質に関する不祥事が相次いだ。写真は、子会社で検査データの書き換えなどの不正が発覚した三菱マテリアルが11月24日に開いた記者会見(写真:竹井 俊晴)

 「大手法律事務所は、こぞって危機管理のサポートを重要なビジネスと位置付けている。ぜひ話を聞きに行った方がいい」。取材先からこんな助言を受け、取材班が向かったのが西村あさひ法律事務所だ。業界でもいち早く危機管理の分野に参入し、大手企業の不祥事対応や係争案件に関わってきた。

 その内容は、重大な不祥事・紛争などの危機発生時に助言を提供すること。ホームページを参照すると、「(1)関係当局による調査・捜査への対応、(2)適時開示を含めた証券取引所対応、(3)監督官庁等の官公庁対応、(4)マスコミ対応、に関する助言をするほか、国際的な案件では、外国法律事務所等との連携のもとに対応策を助言します」とある。

 公表されている実績だけでも、大きな話題になった事案が並ぶ。2006年に発覚した、旧日興コーディアルグループの不正会計問題では、責任追及委員会に参画。07年に発生した東京都渋谷区の温泉施設「シエスパ」の爆発事故では、業務上過失致死傷罪に問われた施設運営会社の担当役員の刑事弁護も担当した。

 西村あさひで、こうした危機管理のエキスパートとして業界にその名を知られるのが、東京地検特捜部のOBでもある木目田裕弁護士だ。木目田氏は、「企業の危機管理が本格的に重視されるようになったのは2004年ごろから。粉飾決算をはじめ不祥事案件に社会の厳しい目が向けられるようになり、専門的な助言を求める企業が年々増加していった」と振り返る。

30人の弁護士が関わるケースも

 木目田氏のような検察OB、さらに金融系や報道機関の出身者など、西村あさひには多様な経歴を持った弁護士が集まっている。専門的な知識だけでなく、実際に「現場」を経験している彼らはその経験を生かし、様々な企業の不祥事や訴訟の案件に対応する。兼任も含めれば、危機管理に従事する弁護士は40人程度に上る。

 木目田氏は、「適切な助言をしながら、企業活動の再生を迅速に実現するのをサポートするのが我々の役割。ただ、近年は案件の内容やテーマも非常に多岐に渡ってきている」と明かす。実際、西村あさひに寄せられる案件は、相談レベルのものも含めれば年間100件以上。案件の大小によって、4~5人から時には30人程度の弁護士が関わることもあるという。

 弁護士といえば法律的な観点からの助言がその役割と思われがちだ。もちろん、それは重要な役割の一つだが、近年は法律論では判断できない、「炎上」への対応が必要なことは本特集でも取り上げた通り。違法性がなくとも、企業倫理に反するような不正に関しても対応が必要になる。危機管理チームの一員である鈴木悠介弁護士は、「監督官庁、マスメディア、世論などの動きに常に目配りしながら、当該企業の関係部門と調整を進める」と話す。

次ページ 模擬記者会見の専用スタジオも完備