「ネット掲示板への書き込み」で慌てた東レ・日覚社長

 「財界総理」を輩出した名門企業・東レも、謝罪の連鎖に嵌り込んだ。東レの失策は、神戸製鋼や子会社3社による製品検査のデータ偽装が発覚した三菱マテリアルという“先行事例”があったにもかかわらず、対応が後手に回ったことにある。

 11月28日、東レは子会社の東レハイブリッドコード(THC、愛知県西尾市)で、タイヤ補強材などの製品データを改ざんする不正があったと発表した。謝罪会見には東レの日覚昭広社長らが出席。「大変なご迷惑をおかけし、誠に申し訳ない」と陳謝を繰り返した。

 ただ、不正の中身もさることながら、詰めかけた報道陣の関心を集めたのは、不正を公表するに至った経緯やその判断の拠り所だ。

 もともと東レは2016年7月に不正を把握しながら、社内での配置転換や取引先への説明にとどめ、社会に公表することは想定していなかった。

 東レの主張によれば、THCでは2008年4月から16年7月まで、自動車用タイヤの繊維製補強材や、自動車用ホース・ベルトの補強材で149件の不正があったという。顧客との間で取り決めていた規格の品質検査データを、歴代の品質保証室長2人が改ざん。数字の書き換えなどでごまかした上で出荷していたという。

 こうした改ざんの実態は、THCの社内調査で発覚。その後、東レの日覚社長にも報告が上がり、内々には当該社員の配置転換や、顧客への説明などは行っていた。しかし、当初東レが対応を想定していたのはそこまで。日覚社長は「法令違反やリコール(回収・無償修理)、安全上問題がある場合には当然公表するが、今回は安全性には問題はない」と説明。対外的に公表するつもりはなかったとの認識を示した。

 それでは、なぜ東レは方針を転換したのか。きっかけになったのは、11月初めにネット掲示板における不祥事についての書き込みがあったことだ。内容は、東レのグループ会社で検査データの改ざんが10年前から行われており、さらに組織的な不正であった、というもの。一部メディアも取材に動いていたとされる。

 この状況を受け、東レは「何件かの問い合わせもあり、神戸製鋼や三菱マテリアルの問題もあって品質に関心が高まる中、正確な内容を公表すべきだと考えた」(日覚社長)。組織的な不正とのイメージが広まれば、親会社をはじめグループへの悪影響は格段に大きくなる。発覚から1年以上が経過したとはいえ、公表するとの判断に傾いた。

 しかし、11月初めにネット掲示板への書き込みが発覚してからの東レの動きはお世辞にも産業界の「優等生」とは言い難い。対応に動くまで時間がかかり、東レ出身の榊原定征・経済団体連合会会長に説明を行ったのも27日。さらに、外部有識者らを交えた調査委員会を設置したのも27日だった。

 こうした“突貫工事”の実態は、いずれも記者会見の中で、集まった記者から厳しい質問を投げ掛けられてやっと明らかにしたことだ。日覚社長はその都度、「申し訳ない」という言葉を繰り返した。

 日覚社長は「品質保証は将来の利益の源泉だと繰り返し言ってきた。一層のコンプライアンス強化に取り組む」と強調。記者会見の最後には冒頭と同じように深々と頭を下げ、その時間は1分以上にも及んだ。産業界では剛腕で知られる日覚社長。この時、胸に去来していた思いはどのようなものだったのだろうか。

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