2016年も企業の不祥事と、それに伴う「謝罪」が繰り返された。今や悪い評判はネット上で瞬時に拡散し、企業も個人も一夜明ければ「社会の敵」になってしまう。初動の迅速さと適切さが問われるのはもちろん、自浄作用があるかどうかを社内外のステークホルダーは厳しく評価する。
日経ビジネス12月12日号では昨年に続き好評企画「謝罪の流儀2016」を掲載し、企業の危機管理の最前線を追った。日経ビジネスオンラインの連動企画の第一弾は、DeNAを取り上げる。
12月7日の記者会見で謝罪した守安功社長(左)と南場智子会長(撮影:的野 弘路)
「誠に申し訳ございませんでした」
12月7日、DeNAの守安功社長、南場智子会長、小林賢治執行役員経営企画本部長は都内で記者会見し、深々と頭を下げた。キュレーションサイト(情報まとめサイト)における不正確な記事や無断転用などについて謝罪したものだ。成長を期待していたキュレーション事業の全面停止にとどまらず、医療や自動運転といった事業領域にも進出している同社のブランドにも大きな傷跡を残す結果となった。
事態がここまで悪化した大きな理由が、同社の危機管理の失敗だ。何度も問題が指摘されたが、その度に希望的観測に基づいた社内のロジックで問題があると判断した部分についてのみ修正した。だが、「事態を矮小化している」「対応が中途半端」との反発を呼んだり、新たな事実が次々に判明したりして、謝罪と追加対応を強いられるサイクルに陥った。
夏前に批判を認識も場当たり的対応
「夏前くらいに、医療情報がこのような形で提供されているのはどうなのかという声が耳に入ってきた」。守安社長は記者会見の中でこう振り返った。
だが当時の判断は、記事を公開したままにしておき、順次専門家が監修していけば問題ない、というものだった。誤った医療情報を提供し続ければ、それを信じた読者の心身に悪影響を与えるリスクがある。「監修が入っていないのであれば本来は一旦記事を取り下げて、監修をつけてから再度アップすべきだった」(守安社長)と悔やむ。
医療・健康情報を扱っていた「WELQ」には、肩こりの原因を霊的なトラブルとするなどの非科学的な内容のほか、「健康食品がガンに効果がある」といった問題がある記事が掲載されていた。
とりわけ批判が集中したのは、「死にたい」といった検索ワードで上位に表示される「人生に疲れたな、と思った時。」という記事だ。うつ病の人が読んだ際にむしろ病状が悪化する恐れがあると指摘される内容だったのに加えて、診断テストの広告に誘導していた。DeNAはこの記事について広告へのリンクを削除するだけで、記事そのものは取り下げなかった。
希望的観測が招いたブランド失墜
事態が急速に動いたのは11月28日。ニュースサイトのBuzzFeed(バズフィード)が「参考サイトの文章を、事実や必要な情報を残して独自表現で書き換えるコツ」などを含んだ「マニュアル」が存在したと報道した。他人の著作物からの剽窃を、外部のライターに対して組織的に奨励しているととれる重大な内容だ。
DeNAではWELQだけではなく「iemo」や「Find Travel」など合計9サイトを同じ事業部で運営していた。当然、WELQ以外のサイトにもリスクがあることは想定できたはずだが、翌29日に同社が発表した内容は、薬機法に抵触する恐れがあるWELQの非公開化に留まった。他のサイトについては守安社長が委員長となる「キュレーション管理委員会」を設置して調べるとした。
そこから先は、坂道を転げ落ちるだけ。他の8サイトでも同様の運営状況であったことが判明し、12月1日に計9サイトの記事の非公開化と守安社長の報酬返上を発表する。
2016年3月期まで3期連続減益に沈む中で、成長の期待をかける事業が不祥事でほぼ壊滅状態に。組織ぐるみで、著作物の剽窃を促していた可能性すら出てきている。経営トップの進退が問われる事態にも関わらず、この段階では記者会見について「予定はない」(広報担当者)としていた。
状況認識の甘さは、原因の調査や再発防止策の中途半端さにも表れている。上場企業で重大な不祥事があった場合には、利害関係のない専門家からなる「第三者委員会」を設置し、問題の原因や事実関係を徹底的に調査し、再発防止策を提言してもらうことが常識となっている。
それにも関わらずDeNAは当初、社内の「キュレーション管理委員会」で記事作成のプロセス及び中身の精査を行うとの姿勢を崩さなかった。「守安社長も利害関係者であり、社会の信頼が得られないのでは。第三者は入れないのか」との記者からの質問に、「検討したい」(広報担当者)との答えが返ってくるのみだった。
黙って存続サイトの記事8割を削除
12月1日の段階ではDeNAは「運営体制に問題がない」として「MERY」という1サイトのみは継続した。ところが、その発表から間をおかず、MERYでも大量の記事の非公開化を進めていたことが判明。この事実を知った取締役会が「他のキュレーションプラットフォームサービスと同様に一度サービスを停止し、厳正かつ公正な調査を受けるべき」と指摘した。7日の会見では、ようやく「少しでも問題がありそうな記事は、機械的に一時非公開処理を行っていた」と釈明したが、状況を考えれば重大な疑念を持たれても仕方のない行動だ。
DeNAは12月5日、MERYの記事非公開化と第三者委員会の設置を発表。そして、7日にようやく経営トップが公の場に姿を表し謝罪した。3時間に及ぶ会見でも不信感は拭えず、社長の進退や、組織的な剽窃への関与、事業責任者が出席しない理由などへの質問が相次いだ。
ここに至るまでにDeNAが失地回復を図る機会は、何度もあった。
最初のチャンスは、WELQの記事への批判が高まったときだ。そもそも同事業はベンチャー企業を買収して発足した経緯がある。その際DeNAの経営陣は、著作権管理についてリスクがあると認識していたという。
WELQの炎上そのものは、明らかに問題がある医療情報を提供することへの反応だったかもしれない。だが、上記経緯を考えれば、低品質の記事が量産されていることを把握した時点で、記事生成プロセスをチェックするという思考回路を経営陣が働かせることはできたはず。そうすれば、不適切な運営体制も自ら発見し改めることができた可能性は高い。
もう一つのチャンスが、マニュアルの存在が報道されたときだ。危機管理の鉄則は、影響が拡大する可能性を食い止めること。現場で何が起きているかを把握できていないことを自覚していたにも関わらず、希望的観測に基づいてWELQ以外のサイトで記事の公開を継続したのは明らかな判断ミスだった。不祥事の最中に、収益を最優先しているとの印象を与えることになる。
そうした一連の対応が、DeNAには自浄能力がないのではとの疑念を抱かせ、社内外から情報が一気に噴出する事態につながった。今後の信頼回復は、第三者委員会が本当に機能するかにかかっている。
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