世界の開発の拠点となる新R&Dセンターが稼働

 こうした改革の流れを加速させる施設として、2018年10月から稼働を開始したのが、愛知県岡崎市の同社EV技術センター内にある新R&Dオフィスビル「開発本館」だ。この施設は、山下氏が副社長就任以来進めてきたPRev(Performance Revolution)という開発部門の改革が掲げる「情熱のクルマづくりでモビリティに新たな価値を」のビジョンを実践する場でもある。

 「三菱自動車のR&Dの中核拠点であり、ここから世界に対して価値を生んでいく場所です。また、“いい働きぶりはいい職場環境から”と言われるように、ここで働く人たちの心持ちを変える効果も期待しています」

 聞けば、1台のクルマを製造する工程には500名を超えるエンジニアが関わっていて、3万点を超える部品が使われているそう。つまり、クルマに搭載されるシステムが複雑になればなるほど、人と人との関わり方がクルマづくりにおいても重要になってくるため、多くの人がコミュニケーションを取りやすく、快適な環境で働けるオフィスビルの存在は、新たな技術開発を進めるうえでも果たす役割が大きいと山下氏は言う。

 「社外にいる頃から、三菱自動車はクルマ好きが集まってクルマをつくっている会社の印象が強かったのですが、実際に中に入ってみるとそのイメージどおりでした。特にクルマが完成してからさらに磨きをかける“玉成(ぎょくせい)”と呼ばれる作業のパフォーマンスは、本当に素晴らしいと思います。ただ、こうした下流の強さに対して上流が弱いという部分があるのも事実です。新たなR&Dの拠点ができたことで、今後はプランニングと先行技術開発を充実させて、商品づくりに生かしていきたいと考えています」

延床面積約34.719平方メートル、地上8階建て。柱のない空間を実現したフロア内には、フロア間を容易に移動できる吹き抜けダブル階段を設置。社員へのアンケートをもとに、多目的に使えるコミュニケーションスペースも設けた
延床面積約34.719平方メートル、地上8階建て。柱のない空間を実現したフロア内には、フロア間を容易に移動できる吹き抜けダブル階段を設置。社員へのアンケートをもとに、多目的に使えるコミュニケーションスペースも設けた

独自技術に磨きをかけて“三菱自動車らしさ”を追求していく

 「自動車業界は今、大きな転換期に差しかかっている」と山下氏は言う。

  ただ、それは過去にあった排ガス規制や交通戦争の激化といった“負の遺産を消す”ためのものではなく、未来に向けた“新しい価値を創造する”というポジティブなものに変わりつつある。そして、その起爆剤となるのが運転の自動化だ。

 「自動運転の進化によって社会全体が交通システムをコントロールするようになると、クルマの役割や位置づけも当然のように変わってきます。これまでの自動車メーカーとサプライヤーという関係に、IT系企業やサービス系企業といった新たなプレーヤーが加わり、その数がさらに増えていくでしょう」

 では、そんな中で“三菱自動車らしさ”を打ち出していくためには、どうすればいいのか?

 「当社が長年培ってきた電子制御4輪制御技術『S-AWC』に象徴される独自技術を高め、評価が高い『アウトランダー』のPHEVシステムの電動化技術を軸にして、独創性のあるクルマを開発していきたいと考えています」

 とはいえ、世界中の各自動車メーカーがしのぎを削る中、自社単独でやれることには限界があるのも事実。

 「ルノー、日産自動車との3社のアライアンスで共通してできることはやる。独自にブランドを育てていくところは独自にやります。“なぜ三菱自動車のクルマを選んでいただけるのか”という問いに対する答えは、当社独自のポジショニングと価値があるからにほかなりません。そこのところはぶれることなく、これからもずっと追求し続けたいと思います」と、山下氏は決意を語った。