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 トランプ米大統領も警戒感を強めているとされる中国の技術力。半導体やAI(人工知能)などのハイテク分野では中国発のスタートアップが続々と誕生し、中国の産業高度化をけん引する役割を果たしつつある。そんなスタートアップが集まる都市の一つが香港に隣接する広東省の深圳だ。中国発技術革新「チャイノベーション」を体現するという深圳に足を運び、熱源を探ってみた。

 「何をしている! ここがどこかわかっているのか!」。ガードマンの鋭い声が響き、そのまま古い雑居ビルの事務室に連行された時は流石に冷や汗が出た。

 2009年ごろ、中国広東省の深圳を訪れた時のこと。「華強北と呼ばれる秋葉原のような電気街があり、海賊版の携帯電話がたくさん売っているらしいよ」。知人にそう聞いて足を運んだら、本当に米アップルや韓国サムスン電子を真似た海賊版の携帯電話が多数陳列されている。面白がって不用意に写真を撮っていたところを見咎められてしまった。英語で「観光客だ」と説明し続け、解放された時の安堵感は今でも覚えている。

今も電気街が華強北にはある。試作などに必要な部品がそろう

 それから9年。同地域には真新しい高層ビルが林立しており、そこかしこにあった明らかな偽ブランドの携帯電話を売るショップも見当たらなくなっていた。「いかがわしさが感じられなくなって少し残念だ」と中国人の知り合いに冗談交じりに話したら、「今時、そんな偽物を買う人なんていませんから。今の深圳は北京、上海、広州と並ぶ一線都市ですよ」と憐れむような目で見られてしまった。

 今や、生産のみならず技術開発でも日本を凌ぐ実力を身につけたとも言われる中国の製造業。その原動力の中心になって急速な発展を遂げてきたのが、深圳だ。

 農村から来た若者が小さな修理工場に雇われ、技術を身につけて起業する。香港に隣接し改革開放政策の象徴として経済特区が設けられた深圳は、かつてのアメリカンドリームさながらの立身出世が可能な街として若者を引きつけてきた。偽ブランドの携帯電話を売っていた若者たちにも、そうした背景を持っていた人が少なからずいたに違いない。

 その起業ブームがさらに加速したのが2014年以降のことだ。「大衆創業・万衆創新」(大衆の起業・万民のイノベーション)。李克強首相の打ち出したスローガンのもと、中国政府は起業やイノベーションを促進する政策を相次いで打ち出した。起業ブームに乗って生まれた企業の多くは淘汰されたが一部は生き残り、技術力を高めようとしている。

 無人で農薬などを散布できる農業用ドローンのメーカー、天鷹兄弟集団(深圳市)はその一社。創業者の李才聖氏は技術者出身ではなく、全く異なる分野の上場企業の管理職をしていたが李首相の言葉を聞いて起業しようと決意。中国で「米の父」として知られる農学者、袁隆平氏との出会いもあり、2015年3月に同社を起こした。

中国農業のIT化を後押しする天鷹のドローンと創業者の李才聖氏

 今や年間の出荷量は約1000台。「同等の散布量のヤマハ製品と比べたら10分の1の価格だ」と李氏は胸を張るが、武器は価格だけではない。農業従事者が直感的に操作できるスマホを使った飛行ルート指定機能を備える。木に引っかかって墜落しても駆動部分が壊れないようにする構造など、農業用特有のニーズを踏まえて設計開発していることが受け入れられているという。