中国広東省の深圳は「ハードウェアのシリコンバレー」と呼ばれ、中国にそれほど関心がない人にも広く知られるようになった。スマートフォンによる決済など、ここ数年で一気に社会に溶け込んだIT技術に実際に触れるため、大企業の経営者から大学生に至るまで様々な人が深圳を訪れるようになっている。

個人や企業単位で深圳に行って視察するだけでなく、20万円程度の料金で参加できる視察パッケージツアーも増えた。ツアーにせよ、個人での訪問にせよ、旅程は似ている。民生用ドローン世界最大手のDJIやIT大手の騰訊控股(テンセント)のような有名企業やコワーキングスペース、電気街を訪問するほか、スマートフォンによる決済やシェア自転車、無人コンビニなどを体験する流れだ。
もちろん、現地を見てその実情を知ることは重要だ。一方で、日本からの視察の一部に対しては、現地の人から批判の声が上がっているのも事実だ。批判の原因を探ると、日本人にありがちな2つのポイントが浮かび上がるとともに、日本の問題点が浮かび上がる。
①ビジネスにつながらない
日本のビジネスパーソンが視察に来ても、ただ見て帰るだけでその後のビジネスにつながらないと嘆く現地の人は多い。これは深圳に限ったことではなく、米国のシリコンバレーなどでも同様のようだ。深圳の一部の施設は、日本人による視察については料金を取るようになっている。
問題は日本企業の意思決定の遅さにある。
日経ビジネス12月10日号の特集「チャイノベーション」では、誰もがしがらみなく挑戦できる深圳を表す標語として「来了就是深圳人(来たらもう深圳人)」という言葉を紹介した。
深圳にはもう一つ、改革開放の精神を表す有名な標語がある。「時間就是金銭、効率就是生命(時は金なり、効率は生命なり)」だ。改革開放によって生まれた深圳は、その誕生の経緯からしてビジネスと経済発展を宿命づけられていたとも言える。

40年で40倍超の人口になったこの都市の発展スピードを生み出したのは、カネを稼ぎ出すために猛烈な速度で動く企業や個人だ。1日決断が遅れれば、他社が類似品を作り、競争に敗れてしまうかもしれない苛烈な環境が「深圳スピード」とも言われるこの都市の文化を生み出した。
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