2025年、会議室は消える?
具体的に、総務のプロがいれば職場はどのように変わるのでしょう。
カックス:例えば、2025年や2030年になると、「(1980年代から1990年代に生まれた)Yジェネレーション」以下の人たちが社員の半分を占めるようになります。彼らは現代のIT技術などに子供の頃から親しんだ世代で、きっと今の職場環境に溶け込むことはできないでしょう。
現在ではどの企業でも、会議室は予約が取れないくらい一杯です。けれどYジェネレーション以下の世代が増えると、きっと会議室は不要になるはずです。というのも、彼らは常に「コネクト」している世代です。腕時計にまでスマホ機能が備わるようになって、彼らは常にSNSなどでコミュニケーションを重ねている。業務中でも色々な人と繋がっている。
こうした世代は、仕事でも同じ部屋に集まって話す必要などありません。3日後に予定されている会議を待つよりも前に、SNSやLINEなどでコミュニケーションして、議論を重ねる。会議室など必要ないんです。
私の子供世代ですら電話の文化はほとんどありません。けれど、だからといってコミュニケーションが希薄かというと逆で、常に誰かと繋がっている。私の世代には理解できませんけれど、それでもプロの総務は、こうした世代の到来を前提にこの先の職場環境を考える必要がある。経営層も若い世代を理解できないでしょうから、彼らに変わって総務のプロが、「会議室を増やすよりもiPhoneを全員に支給すべきではないか」などと経営層に交渉する必要がある。総務のプロとは、そこまで考えるものなのです。
コストを削減することばかりが「プロ」ではない。
カックス:先ほど、総務財布の2割は削減できると言いましたが、コストカットよりも重要なのは、使わなければならない8割の費用をどのように活用するかということです。会社にとってどうしても必要な費用を、会社の成功や成長のためにどのように使っていくのか。
言い替えれば、プロの総務は、会社のためにお金を使うプロなんです。それにも関わらず、日本の総務部は、「今までずっとこうだったから」とか「長い付き合いがあるから」と、請求書が届くと惰性でお金を支払っている。あまりもお金の使い方に無頓着ではありませんか。これでは企業の成長に貢献しません。
繰り返しますが、総務部は会社の文化の担い手です。郵便物の配り方からゴミ箱の置き方、受付にはきれいな女性が必要なのか、それとも電話が1台あればいいのか。細かい要素ですが、総務部は最も会社に精通し、文化を理解し、何を守って何を捨てるべきなのかを考えなくてはなりません。
総務部は本来ならば、直接部門の職場を最も知っている人材でもあるわけです。電球が切れたり、何かが故障したりすれば、呼ばれるのは総務部です。開発や製造、マーケティングといった直接部門の現場から、役員室や社長室まで、会社のあらゆる場所を歩き回って隅々まで把握している。現場を歩いていれば、それぞれの職場でどんな労働環境が理想的なのかも分かるようになるはずです。
「便所から役員室まで」
つまり総務部門の社員には、経営層に近い意識も必要になる。
カックス:私が提唱する「戦略総務」とは、会社の経営方針に沿った戦略を実践する部門です。そういう意味では経営層の一端を担っているとも言えるでしょう。
総務の仕事について、私はよく「便所から役員室まで」と言っています。トイレの掃除や管理も総務の仕事で、便器が詰まれば総務が呼ばれる。詰まりを解消するのも私たちの仕事ですから、当然のことでしょう。けれど同時に役員会議で、ある工場を売却するか移転するかといった経営戦略を、経営陣と一緒に考えるのもプロの総務の仕事です。「便所から役員室まで」と私は若い頃に学びましたし、それこそがプロの総務のあるべき姿だと思っています。
ただ実際には、総務部が下した決断に直接部門が反発するケースも多々見られます。たとえ総務側は経営判断としてある決断を下したのに、「また総務が勝手にこんなルールを作った」などと言われたりする。
カックス:ルールの変化についても、プロの総務はマネジメントできるんです。例えば何かのルールを変える時、どんな反応が起こるのかということにはおよそ一定のメカニズムがあります。それを理解して実践することです。
会社のルールを大きく変える時、その変化を社員らにどう受け止めてもらい、協力してもらうのか。変化の過程で、プロの総務にはコミュニケーション能力や(直接部門に対する)社内営業能力、分析能力などが求められます。これらの能力を駆使した上で、直接部門などの社員に「ルール変更がいかに合理的な決断か」「ルール変更によってどんなメリットが享受できるのか」を理解し、実践してもらう。変化について社員にうまく適応してもらえるかどうかも、プロ総務の手腕が試されます。
単なる総務からいかにプロの総務に生まれ変わるか。総務部が戦略的な考え方を実践できるようになれば、日本企業は再び成長するはずです。
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