バブル崩壊前には、たくさんいた総務のプロ

なぜ日本の企業に総務のプロがいないのでしょう。

カックス:かつて総務部は、経験を重ねて人材を育てていくしかありませんでした。そして実は、かつての日本企業には経験を積んだ総務のプロが存在していたんです。

 というのも、日本企業はバブル経済が崩壊する1990年代半ばまで、高度経済成長の波に乗っていろいろな設備投資をしたり、不動産を取得したりしていました。当然、こうした仕事は総務部が担いますから、1980年代や1990年代半ばまで、総務部は本当に忙しくしていた。そして忙しい中でもこうした経験が、総務のプロを育てていたのです。実際、その頃の総務部門の方々とお話をすると、本当によく分かっている。日本にもプロがいたのだと実感できます。

 けれどバブル経済が崩壊してから、多くの企業が守りに転じて、そんな状況が20年も続きました。そして、その間に経験を積んだ総務のプロは次々と定年退職を迎えてしまった。半面、バブル崩壊以降の総務部は、それ以前と比べると経験が乏しい。こうして、総務のプロがいなくなってしまったのです。

総務のプロなら経費は2割削れる

総務部門が「プロ」になると、会社はどのように変わるのでしょうか。

カックス:私は現在、多様な企業の総務部社員を育てようと、一般社団法人ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアムを展開していますが、参加する人には「あなたたちはとても恵まれている」と伝えています。

 多くの企業において、総務以外の部門では、長年先輩が経験を積んで、仕事の進め方やアプローチなどもおよそ決まっています。けれども総務に関して言えば、日本企業はほとんど何もしてこなかった。見方を変えれば、企業の中で総務部は、未開拓のフロンティア部門なのです。自分たちが経験を積んだり、学んだりして、プロの仕事をすれば、会社から信頼を得て、より多様な仕事を任せてもらえるようになる。「戦略的総務」という存在に生まれ変われば、成果を出して、経営に大きく貢献することも可能です。

「総務のプロ」ならどんな成果が期待できるのでしょう。

カックス:およそ私の経験では、例えば毎年10億円の「総務財布」を使っていた企業の場合、2割はコストを下げられます。通常ならば支払わなくてはならないコストが2割削減できるのですから、これは純然たる利益になる。ノウハウが必要ですし、会社の構造も変えなくてはなりませんが、確実に結果を出すことができます。

ただ日本では現在、コスト削減の名の下で総務部から時に「労働生産性を悪くするのでは」と思えるような通達が下ります。例えば清掃費を抑えるためにデスク周りのゴミ箱がある日突然、消えてしまったり……。確かにコスト削減効果はあるのだと思いますが、それを追求しすぎた結果、直接部門の労働生産性が低下すれば元も子もないのではとも感じます。

カックス:それは総務の担当者がプロではなくて素人だからではないでしょうか。直接部門の労働生産性向上という発想を持たない総務は単に目の前のコストを削減しようとしますから。

 けれども、プロは全く異なる次元で物を考えます。プロにとって重要なのは職場全体の生産性を高めることです。それはデスクの置き方や会議室の運用方法など、あらゆる要素を勘案して、直接部門の生産性を高めなくてはならない。それこそが、まさに総務の仕事であり、私自身は、総務の仕事こそ会社文化の担い手であるべきだと、信じています。