間接部門の「プロ」を育てない日本企業

そもそも日本企業の場合、どんなモチベーションで間接部門で働いている社員が多いのでしょう。

太田:もちろん人によって千差万別です。けれど、実際に組織論の研究でいろいろな人の話を聞いたり、見たりしていると、「本当は直接部門で働きたかったけれど、間接部門に回された」と、一種の鬱屈した気持ちを持つ人も多いようです。

 証券会社に入って本当は営業をやりたかったけれど総務部門に配属されたり、食品メーカーに入社して商品開発やマーケティングを希望したけれど経理に回されたり。最初から経理のプロや人事のスペシャリストを目指していれば不満はないのでしょうが、日本企業の採用スタイルはそうではない。そこで鬱屈した思いを抱え、より承認不足に悩む社員もいるようです。

 本来は、欧米企業のように職種ごとに採用する方がいいんです。しかも、その道の能力を身につけたらキャリアアップもできる。専門性を究めて「総務のプロ」になることができるなら、努力もするでしょう。

 けれど日本企業の場合、直接部門も間接部門もなかなかプロを目指せませんよね。転職の機会も少ないし、人事異動によるローテーションもある。今は経理部に所属しているけれど、3年後にはどうなるか分からない。だったら経理の資格を取得しても仕方がないと考えてしまうでしょう。特に若い社員はいろいろな部門を経験させられますからね。

太田先生の著書「がんばると迷惑な人」にもあるような、頑張りすぎる間接部門の社員もいます。

太田:頑張って迷惑な人というのは、間接部門の方が多いようですね。

 直接部門の場合、ビジネスの相手は市場であったり、モノであったりするわけで、頑張るほど成果につながりやすいという面もある。同時に、ビジネスの相手が取引先などの顧客の場合、相手に迷惑をかけるような頑張りはしません。嫌われて取引がなくなれば、本末転倒ですから。

 一方、間接部門の場合、頑張りすぎて迷惑をかけることもあるかもしれないけれど、相手は同じ社内の人間です。だからこそ頑張っているところをアピールしようと、言い方は乱暴ですが、パフォーマンスのための頑張りをするようになりがちです。間接部門の人々が認めてもらう相手は社内にしかいませんから。そこで人によっては、承認欲求を満たそうと、相手が嫌がっているのに頑張り続けてしまうケースも出てくるのです。

人間は承認を求める生き物

承認欲求を満たすために、仕事を離れた場に活躍の場を求めるのも手だと、先生は著書の中で書いています。

太田:仕事の外で承認欲求が満たされれば、仕事の満足度も高まるということは、研究結果でも出ています。ボランティアや地域活動、スポーツや趣味、何でもいいのだけれど、自分が生きがいをもってできる活動があり、そこで承認欲求が満たされていれば、少々仕事がつまらなくても満足できるのです。つまり人間はどこかに晴れの舞台が必要で、どこかで自分が主役になって認められれば、満足して生きられる。

 一方で、承認欲求が満たされないのであれば、無理矢理にでも光を当てるしかありません。

ことほど左様に、人間とは承認を求める生き物なのですね。

太田:その通りです。承認すればモチベーションや業績が上がる一方で、離職率や不祥事は減ります。実際に承認によって業績が上がるということは、私の実験でも明確な結果として出ています(詳しくは「承認とモチベーション【実証されたその効果】」を参照)。

 間接部門の人々の晴れの場を作ったり、彼らに感謝を伝える場を、「仕組み」で作ること。口で言ってもなかなか実行できないでしょうから、強制的にそういった仕掛けを作るのです。誉めるカードや誉めるメール、表彰や研究会。いろいろな方法で、間接部門に注目する場を作ることです。それも、これらの取り組みはほとんどコストをかけずに始められて、結果も出ますから、コストパフォーマンスも高い。

「俺は聞いていない」の闇

ほかの社内の問題も、「承認欲求」を満たすことで解決できそうですね。

太田:例えば直接部門、間接部門に関わらず、会社の中で何らかの報告が自分に伝わっていないと、「俺は聞いていない。だから絶対に認めない」と意地になって反対する人がいますよね。これは、典型的な承認不足が原因です。自分の存在が認められていないから、意固地になって反対する。

 もし本人に、普段から承認欲求が満たされている実感があれば意固地になることはありません。自分が承認されている確証があれば、「良きにはからえ」となるわけです。けれど普段から注目されていない人や、周囲からの評価が不足していると感じている人は、「馬鹿にされているのではないか」と疑心暗鬼になってしまう。そして意固地になるのです。

上司と部下の間にも「承認」の問題は発生するのでしょうか。

太田:大いにありますね。特に根深いのは部下から上司への承認です。

 上司が部下を認めるかどうかは、基本的には業績などの結果がベースになります。たとえ嫌いな部下でも売り上げを作って貢献すれば一定の評価はされるでしょう。

 けれども部下から上司への評価は業績ばかりではなく、「尊敬できるかどうか」という人格に関わる要素が大きい。結果は出すけれども人間的に尊敬できない上司や、結果さえ出せなくて尊敬できない上司に対して、部下は冷静に評価を下します。部下から評価されなければ、その上司は、さらに上の役員層などからも認められることはありません。「部下も束ねられないのか」と。

 つまり中間管理職の承認欲求は、部下に大きく依存し、承認不足に陥りやすい。中間管理職は複雑な承認欲求を抱えるものなのです。

 そう考えると、人間とはみんな同じ承認欲求を持ち、みんな悩んでいるのです。その上で改めて間接部門と直接部門の問題に戻ると、直接部門は認められる機会があるけれど、同じ承認欲求を持っているのに、間接部門には認められる機会が少ない。人間ですから、活躍して認められる機会が乏しければ、いたずらをしてでも存在を認めてもらおうとします。それは子供でも大人でも変わりません。

 事実、いろいろと意地悪なことをしていた社員でも、いったん認められる機会があって感謝の気持ちを伝えられると、人が変わったようになったという話を聞きます。まるで人間が変わったようにいい人になった、と。要するに認めてもらいたかったのでしょう。だからこそ、まずは隣人を尊重して認めること。組織の問題は、そこからしか解決できないのではないでしょうか。

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