「減点評価」で苦しむ間接部門

太田先生の著書「承認欲求―『認められたい』をどう活かすか?」では、会社への忠誠心に名を借りて、言わば「会社のため」という大義名分のもとで、足を引っ張るようなケースも書かれています。

太田:直接部門の場合、通常は加点評価ですよね。けれど、間接部門はほどんとの仕事が減点評価となります。ミスを犯さないとか、手続きを守らせることが最優先になります。

 例えば、人事部門の採用について。優秀で個性のある人材が必要であることは、皆さん理解しています。けれども、そう見込んで外れることもあるし、そもそも芽が出るのは数年後ということもあります。癖のある人材を採用して、「人事部は何でこんな人を採用したんだ」と減点評価されるよりも、普通の人を採用しようと考えてしまう。

 間接部門が保守的で、手続きが細かいというのは、皆さん、自分たちがそういう風に評価されているからなんです。先ほどの人事の話であれば、採用担当者が減点方式で評価されてしまうし、総務部門だってミスをすると責任を問われる。一方で加点の機会は極めて少ないので、まずはミスを出さないようにと保守的になる。

 これは日本企業全体の抱える問題なのですが、中でも特に間接部門はその傾向が強いのだと思います。

 もちろん、間接部門の皆さんも「これではいけない。もっとチャレンジさせる会社にしないと。みんなに、のびのびと仕事させないといけない」と理屈では分かっています。けれど、評価基準が減点方式だから、分かっているけれど、どうしてもそれができないようです。

彼ら自身が、自分たちが窮屈だとか手続き主義だということを自覚している、と。

太田:それは分かっていますよ。分かっているけれど、特に最近はコンプライアンスが厳しくなっていたりする。だから何かあれば責任を問われないようにと一層厳しくするわけです。人によっては自分たちの存在感を見せつけたいという気持ちもあるのかもしれませんが。

間接部門の人々が変わる方法はあるのでしょうか。

太田:いくつかの方法があると思います。例えば、誉めたり認めたりすることは、最も簡単な方法と言えるでしょう。些細なことですが、効果は高いですね。

 そもそも日本の会社は誉めない文化が根付いています。直接誰かを誉める、ということがあまりないんですね。ですからそれを改善するために、感謝のメールを送ったり、カードを送ったりする会社も出てきています。

 面白いのは、京都のある中小企業の取り組みです。ある機械メーカーなのですが、その会社は全国各地に営業拠点があり、それぞれの営業拠点に業績達成目標がある。そこで、全国の拠点がどれだけ目標を達成したかによって、間接部門にも賞金が出る仕組みを導入しました。

 間接部門の本来の業務は、直接部門が結果を出しやすくサポートする業務です。それを分かりやすく伝えるために、各地の拠点が結果を出すと、間接部門にも賞金が出る。頑張ってサポートすれば、それが自分たちの利益になることを、最も分かりやすく伝えたわけです。その結果、間接部門は賢明に直接部門を支援するようになったそうです。

 通常、間接部門は「稼ぐ」仕事に対して、どうしても他人事になりがちです。その意識を変えるために、「賞金」というインセンティブを取り入れて意識を変えた。面白い取り組みだと思います。

 人間はインセンティブによってどのようにでも変わることができます。もちろんお金だけではありませんが、長く組織論を研究してきて、会社で起きるほとんどの現象は、いろいろなインセンティブによって説明できると私は考えています。

間接部門と直接部門の対立は、大企業や成熟産業などで特に深刻だという印象があります。

太田:その通りだと思います。そもそも、成長していない業種では成果がはっきりと見えづらい。役所などは最たる例でしょう。成果がはっきりと見えないので減点評価に陥ってしまう。極端に言うと、仕事をしなくても手続きを守っていればいいという手続き重視に陥りやすいのです。伝統的な企業は規模が大きいし、その傾向は強まります。加えて、急成長しているわけではない企業の場合、大きな利益を上げるよりも、コストを減らすことに関心が集まります。その結果、直接部門と間接部門の間の溝は深まってしまうのです。

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