「中国語・英語」の翻訳精度が最も良くなるかもしれない

AIに覚え込ませるデータ量が精度向上のカギの1つだとすると、例えば、その言語を話す人口が多い国の方が、良い自動翻訳システムを手にできるということにはなりませんか。つまり、例えば、中国語・英語は飛躍的に精度が上がるけれども、日本語・英語の精度はそれに追い付けないということが起き得るのではないでしょうか。

隅田:それは正しい指摘かもしれませんね。翻訳の精度がデータ量に依存するシステムですので、データが集まらない以上、システムの性能は高まりません。そのため、日常的に多くのデータが生産されている国のシステムがどんどん強くなっていくというのは、その通りだと思います。

 実際、中国圏と英語圏の人口が一番多いですし、経済規模も大きいですよね。しかも、中国語と英語は文法が似ていますので、比較的、翻訳するのは簡単なんですよ。

 我々のシステムでも、日英、日中、日韓と比べると、実は日韓の性能が一番良くて、日中がその次で、日英が一番、翻訳精度が良くないんです。

日英が一番、難しいんですか。

隅田:一番難しい。

 その理由は、単語を翻訳する順序に関係があるんです。例えば、英語から日本語に訳すのは、比較的やりやすいんですね。まず英語の音声認識は、ネイティブスピーカーのように、ほぼ100%正しくテキスト化できるようになっていますから。さらに、英語の語順はS(主語)、V(動詞)、O(目的語)ですので、機械も十分に落ち着いて翻訳できます。

 一方、日本語から英語に訳すのは難しい。日本語を聞き取り理解するというのは、十分に高いレベルまで来ていますが、訳すのが難しいのです。語順がSVOの英語に対し、日本語はS、O、VでVが最後に出てきます。つまり、同時通訳をやろうとすると、一番重要な動詞を聞く前に訳し始めなくてはいけないわけです。この、動詞を推測しながら翻訳するのが、すごく難しいんです。

つまり、より高度なアルゴリズムが必要になるということですね。

隅田:そうです。日本語から英語に翻訳するのが難しいというのは、人間でも機械でも一緒なんですね。ある種の真理と言いますか、やっぱりそうかと言う感じですね。

自動翻訳が進化することで、日本人にとっての英語の必要性や、英語学習のやり方も変わってきそうですね。

隅田:これからも、機械を一切使わずに自分ですべてをやるんだという選択肢も、当然あります。その一方で、機械の使い方を習熟して、それをうまく使いこなすという選択肢は確実に重要になってくるでしょう。

 例えば、日本人の多くが英語を話せない理由の1つに、「全然、伝えたいことを話せなかった」というような失敗体験が心理的な壁になっているという見方も良く聞きます。しかし、ゼロから外国人と英語で話そうとして失敗して落ち込むより、機械が訳してくれたものをちょっと話してみたり、機械も使って伝えたいことを補足したりして、「外国人と英語で話せた」という成功体験を積み重ねるのも、上達の近道になるかもしれません。

 また、機械が正しく訳してくれるような日本語を話す、書くという訓練を積むのも、これからの語学学習では重要になる可能性もあります。日本語を話す時も、主語をしっかり明確にするとか。そうすれば、論理的に物事を考える訓練にもなりますし、機械だけではなく、自分で英語を話すときも、英語に訳しやすくなります。当然、機械も英語に訳しやすいだけではなく、中国語や韓国語も正確に訳してくれます。

計算するのにも、算盤から電卓、コンピューターへとツールが変わってきました。コミュニケーションも、翻訳AIが出てきたことで、いよいよツールを積極的に活用していく時代に入るということですね。

隅田:算盤を時間かけて覚えるというのも、頭の中でいろいろと計算ができるようになるので、それは素晴らしいことです。しかし、多くの人にとっては、電卓を使って計算した方が早いし、効率的ですよね。

 これからの英語学習も、結局は何のために英語を使えるようになりたいのか、という目的次第だと思います。英語をすべて自分で話すことが必要な人は、そういう勉強をすればいいし、そうでない人は、自動翻訳を積極的に活用して、浮いた時間を別のスキルの習得に回すという発想もあっていいでしょう。