割増料金で着席できるサービスを

それを実行する資金をどうやって確保しますか。

阿部:近著「満員電車がなくなる日」で最も伝えたかったことは、「満員電車の歴史は運賃抑制の歴史」という点です。鉄道は公共性が高いがゆえに、運賃を安くしろとの社会的なプレッシャーを常に受け、それに負け続けてきた結果が満員電車です。

 良質な商品に応じた適正な価格付けという、他の分野では当たり前のこと、事業の成功と産業の発展には不可欠のことができない歴史が100年間続いてきました。

 運賃抑制の当然の帰結として資金が不足し、設備投資も技術開発も、運営費を投じることも不十分となり、満員電車が100年間続いてきました。

 ならば、運賃抑制の呪縛から開放されれば、鉄道への設備投資も技術開発も、運営費を投じることも適正になされるようになり、「満員電車ゼロ」を達成でき、鉄道は社会におおいに貢献できます。

 ただし、一律な値上げは社会に受け入れられるはずがありません。ましてや、満員電車の解消より値上げが先行したら、暴動が起きかねません。

では、どうするのですか。

阿部:深夜の満員電車の対策でも触れましたが、良質で高額なサービスと、良質でないけど低額なサービスを選べるようにします。具体的には、着席と立ち席で値段差を付けます。

 A駅からB駅へ立ち席で移動する基本運賃と、着席するための割増料金の2段構成とするのです。基本運賃は、現行の普通運賃より値下げします。

鉄道各社で、割増料金で着席できるサービスが少しずつ増え、いずれも大人気ですね。

阿部:着席サービスのマーケットニーズが膨大にあるにも関わらず、今のサービスは、残念ながらその一部にしか応えられていません。言い換えると、ビジネスチャンスを大きく取りこぼしています。

 各線の、朝の上りのライナー列車の大半は、都心に7時半より前または9時過ぎに着きます。JRのグリーン車は、最ピーク時間帯は途中駅からは座れません。また、ライナー列車もJRのグリーン車を連結する中距離列車も、停車駅が限られます。

 輸送効率の面でも問題ありです。1両当たりの乗車人数は満席または定員超過でも、ライナー列車は50~70人程度、2階建てのグリーン車は100人程度で、満員電車の300人前後の数分の1です。だからこそ、最ピーク時間帯に増やせないのです。

 私は、全ての着席と立ち席で値段差を付け、供給できる座席数と着席したいニーズが均衡する水準に着席割増料金を設定することを提案しています。

 それにより、利用者は全ての列車で着席サービスを選択でき、鉄道会社は収益を増やせ、輸送効率も低下しません。

安かろう悪かろうに歯止めを

通常のビジネスなら改善に向かうところが、通勤ラッシュの対策については足踏みしている。不思議です。

阿部:鉄道、電力、ガス、水道、通信といった、インフラ設備を必要とし、経済学で言う自然独占となってしまう産業において、公共性と企業性のバランスをどう取るかは、全ての文明社会の共通の悩みです。

 自由競争をさせられれば、イノベーションやサービス改善の努力を怠る企業は自然淘汰され、社会全体としては改善に向かいます。しかし、自然独占の生ずる産業で自由競争とすると、生き残った企業が暴利をむさぼることとなります。

 そのため、政府が価格統制をせざるを得ず、鉄道の運賃は政府の認可制です。そして、ポピュリズムに陥ると「安かろう悪かろう」のサービスとなります。その典型が100年間続く満員電車です。

 私の輸送力増強の提案は「安全軽視」「非現実的」と叩かれます。着席割増料金の提案は「弱者切り捨て」「盲目的な利潤追求」と叩かれます。メディア報道をバックに形成された社会の空気そのものです。

 テクノロジーを活用して効率性・利便性・経済性を向上させる取り組みは、鉄道以外の全ての産業が日々努力していることです。良質で高額と、良質でないけど低額な商品ラインナップは、鉄道以外の全ての商品・サービスでは当たり前のことです。

 鉄道だけを社会の常識から外すことをやめ、鉄道会社が適正な利潤を追求することを受け入れましょう。それにより、鉄道各社は、意欲的に輸送力の増強に取り組むようになり、「満員電車ゼロ」も達成できるのです。