運営費の増加を回収できないから増発しない

鉄道会社はどうして需要に合わせて増発しないのですか。

阿部:投資は不要とは言え、運営費が増え、それを上回る増収を期待できないからです。定期券を持っていながら、混雑を嫌ってタクシーで帰宅している人が、鉄道に戻ってきても増収にはなりません。

どうすれば鉄道会社は増発するようになりますか。

阿部 等(あべ・ひとし)
1961年、東京都生まれ、55歳。東京大学工学部都市工学科修士修了。交通計画を専門に学んだ。88年、JR東日本に第1期生として入社、鉄道の実務と研究開発に17年間従事した。2005年に株式会社ライトレールを創業し、交通計画のコンサルティングに従事している。08年に『満員電車がなくなる日』(角川SSC新書)を出版し、小池都知事の公約「満員電車ゼロ」の元ネタとなった。鉄道の活性化策を様々提言し、鉄道に関して各種メディアにてしばしば寄稿・コメントしている。(写真、北山宏一)

阿部:深夜割増運賃を導入することです。自動改札とICカードの普及により、低コストに実行できる環境は整っています。

 簡単な試算をします。23時過ぎに、10両編成1400人定員の列車に3000人が乗り、混雑率が200%強だとします。1本増発するための運転士・車掌の人件費と電気代を併せて例えば3~6万円だとすると3000人の割り勘で1人わずか10~20円です。居酒屋の焼き鳥1本分にもなりません。

 個別の路線で検討すると、乗務員の宿泊設備の増設を要する、車両の走行キロが延びて検査入場が増えて予備車が不足する、線路と架線の交換周期が短くなる等々、さらにコストが増す要素があっても、1人当たりの負担増はそれほど高額にはならないでしょう。

 忘れてならないのは、自動改札のシステム改修と、磁気定期券や普通キップで利用する人への対応です。それらのコストを勘案しても、例えば22時以降の利用に30~50円程度の深夜割増を設定すれば、鉄道会社の収益性を適正に確保しつつ、実行可能ではないでしょうか。

 元々高いタクシー料金の深夜2割増しや、深夜バスの2倍運賃と比べ、ずいぶんと安いものです。

鉄道を資本主義社会の仲間に

思いのほか少ない負担増で、鉄道のサービスは改善できるのですね。

阿部:鉄道会社に、「深夜の満員電車を解消して社会的使命を果たすべきだ」と求めても話はなかなか進みませんが、わずか30~50円程度の深夜割増を設定するだけで、早期に実現できる可能性があります。

 資本主義社会とはそういうもので、鉄道をその仲間に入れることで、社会への貢献を高められるということです。

 大学院生の時に首都圏の各所の満員電車を見て回って最も印象に残っている2つの内のもう1つが、田園都市線の深夜の満員電車でした。

 当時、渋谷発の急行の終電は0時ちょうど頃でした。今は0時20分です。その終電が、普通の平日の晩でも、お客を積み残していたのです。

 金曜や忘年会シーズンはどうなるのだろう思ったものでした。同時に、田園都市線の沿線には富裕層が多いので、こんな混雑時はタクシーで帰っている人が多いのだろうなと思いました。

 以来30数年、急行の終電は遅くなり、各停と併せて深夜帯の運行本数が増え、当時よりは混雑は緩和され、速達性も高まりました。

 早期に深夜の「満員電車ゼロ」を達成すれば、夕ラッシュや、本丸である朝ラッシュの「満員電車ゼロ」への期待も高まるでしょう。