ビジネスパーソンのみなさんは、毎朝の通勤ラッシュで、会社にたどり着くまでにぐったり疲れてしまってはいないだろうか。「生産性の向上」が叫ばれて久しいが、通勤で疲れてしまっては元も子もない。

 一般的に鉄道の通勤ラッシュは緩和傾向にあると言われている。国土交通省の統計では、1975年度に221%だった東京圏31区間の平均混雑率が、2015年度には164%になっている。

 しかし、利用者の実感は違うようだ。周囲へのヒアリングやアンケートの結果を見る限り、通勤ラッシュに悩む人は依然として多い。

 こうした訴えを機敏に感じているのか。8月に東京都知事選に就任した小池百合子氏は、「満員電車ゼロ」を公約に掲げている。実際にいくつかの電車に乗車したうえで、独自のアンケート結果も踏まえながら、通勤ラッシュの現状と対策を検証する。

目視に頼らざるを得ない理由

 鉄道各社が発表する混雑率は、その信ぴょう性に疑いがある。

 混雑率は輸送力を分母に、輸送人員を分子にして算出する。鉄道各社は毎年、混雑率を調査し、国土交通省を通じて発表している。

 実は、この算出は第三者ではなく、各社が独自に調査している。しかも基本的には年に1回、主にプラットホームからの目視で測定している。では何を目安としているのか。下のイラストを見ていただきたい。

混雑率の目安
混雑率の目安
国土交通省が公表する混雑率の目安
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 前回(鉄道各社が言う「混雑は緩和している」は本当?)も紹介したが、100%の混雑率は「座席につくか、つり革につかまるか、ドア付近の柱につかまることができる」だ。ちなみに150%は「広げて楽に新聞を読める」、180%は「折りたたむなど無理をすれば新聞を読める」、200%は「体がふれあい相当圧迫感があるが、週刊誌程度なら何とか読める」、250%は「電車がゆれるたびに体が斜めになって身動きができず、手も動かせない」だ。

 なぜ目視なのか。

 各社は空気バネなどを搭載した車両で、車重によって人数を把握する試みを進めている。だが、現時点では搭載している車両としていない車両が混在しているという事情がある。また、この手法だと1人当たりの平均体重を決めざるを得ないが、個人差があるほか重い荷物を持っている場合などもあり、正確な測定ができない。

 改札データの活用も考えられるが、個人ごとの乗降駅は様々で、データの解析が難しい。さらに、どの車両に乗っているかまでは把握できない。

 結果として、目視に頼っている。各社の社員の目で見た混雑率を唯一のデータとして、混雑緩和を議論しているのが現状だ。

 仮に熟練の測定スタッフがいたとしても、乗降が激しく混雑する車両をプラットホームから目視で正確に測れるのか。いずれにせよ、鉄道各社は目視という限りなく主観に近い形で混雑率を測定している。

 ある鉄道関係者は明かす。「正直言って、正確に測るのは難しい。11月に測定しているが、車内外の寒暖差などでガラスが曇っているうえに、紫外線カットガラスの普及で車内が見えづらい。測り方は悩ましい問題だ」。つまり、混雑率は“データ”で示されるが、決して客観的な数値ではないのだ。

11月下旬、武蔵小杉駅横須賀線ホームにて(撮影:北山宏一)
11月下旬、武蔵小杉駅横須賀線ホームにて(撮影:北山宏一)

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