
(写真=諸石 信)
ただし、農業は半端な覚悟では務まらない。「体力的にもきついし、自分の都合ではなく、作物の都合に合わせて生活しなければならない。甘い幻想を抱いて就農して、痛い目を見る人が多い」。野菜や花の苗の生産を手掛け、選手を受け入れている早川英人氏は、そう語る。
これまで10年近くの間に10人強の研修生を受け入れてきたが、農業を続けて最終的に独立できたのは1人だけだという。そんな経験をしてきた早川氏も、フレッサ福岡の選手には大きな期待をかけている。「体力はあるし、へこたれずに一生懸命仕事を覚えようとしている。教えがいがある」。
早川氏の元で農業に従事する大野夏也選手は、「体はしっかり鍛えてきたつもりだけど、それでもキツイ。足腰を鍛錬するつもりで取り組んでいる」。そこまで頑張れるのはなぜか。井内勇太選手は、「トップレベルの選手が集まり、活躍できる場は本当に貴重。不慣れで大変なことも多いけど、ハンドボールへの情熱があるから、農業も頑張れる」と話す。
研修中の新規就農者に対しては、2年間にわたり国から年間150万円の給付が下りる。さらに泉社長は、農業法人の「いとしまやさいくだもの」を設立し、先述の日高農園からハウスを借りて、選手がイチゴやトマトの栽培を手掛ける。こうした収益を選手に配分することで、収入を確保している。
ただし来春には、一期生の選手の給付金が終了し、いとしまやさいくだものの収益が主な収入源になる。来年から本格的に生産量を拡大する計画で、「栽培方法の改善を重ねて、収量を引き上げている。やってみなければ分からないことだらけで、毎日が試行錯誤の連続。苦労は多いが、選手も我々も決して片手間ではなく、全力で農業ビジネスを成功させようと頑張っている」。泉社長はそう力を込める。
選手が地域活性化の原動力に
若い選手たちが農業に従事することは、地元の農業の活性化にもつながっている。糸島では少子高齢化が進み、農家の廃業や過疎化が進んでいる。かつては年間1400tほどを誇ったという「あまおう」の生産量も、現在は同1000t程度にとどまるという。「あまおうは人気が高く、作れば売れる。ただし、きちんとした品質のもの作るには手間暇がかかるため、担い手が減っている」(泉社長)。若い選手たちが糸島に根を下ろして、農業を営むようになれば、地域経済にも明るい展望が見えてくる。
選手はさらに地元での催事やボランティア活動にも積極的に参加する。「地元のファンあってのクラブチーム。地域を支え、地域に支えてもらう。そんな関係を築くことが、強いチーム作るためには不可欠。農業は、そんなチームと地元との重要な架け橋になっている」(前川代表)。
農業とスポーツ――。一見、意外な取り合わせに見えるが、フレッサ福岡の挑戦は、農業の新たな担い手の姿を浮かび上がらせた。

(写真=諸石 信)
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