基本は遺言を残すこと

 では、何か良い対処法はあったのでしょうか? それはとても基本的なことなのですが、ポイントをしっかり押さえた遺言書を残しておくことです。

 すべての財産(特に、住んでいる自宅マンション)を妻に相続させる旨が記載された遺言書が有効になります。妻に無用な負担をかけないためにも、遺言書にはしっかりと「財産はすべて妻に相続させる」と記載しておきましょう。きちんとした遺言書があれば、妻は、遺言書をもとに1人で預貯金や不動産の名義変更ができます。夫の兄弟に頭を下げる必要がありません。

 しかも、親には遺留分がありますが、兄弟姉妹には遺留分はありません。遺留分とは、遺言の内容にかかわらず遺産の一定割合を取得できる権利のこと。これが兄弟姉妹にはありませんので、親が死亡して兄弟姉妹しかいない場合には、遺言によって相続分をゼロにしたからといって遺留分を請求されることがありません。このため、子供がいないご夫婦の場合には、遺言書を書くことを強くおすすめするわけです。

 さらに、資産を夫婦で持ち合う場合は、奥さんも遺言を書いておく必要があります。このとき、万一奥さんが先に亡くなったらどうなるでしょうか? 子供がいなければ、奥さんの親や兄弟に相続権が生じてしまいます。夫としては実印をもらいに行かなければならなくなり、非常に苦労することになります。

 一般的な確率からすると、夫のほうが先に死亡する可能性が高いのですが、念のため妻も遺言書を書いておきましょう。夫婦以外に住んでいる不動産の権利が移ることを避けるためにも、夫婦が互いに全財産を相続させる旨の遺言を書いておくのが望ましいです。ちなみに、同じ紙に夫婦が共同で遺言することは禁止されています(夫婦共同遺言の禁止)。遺言書は別々につくりましょう。

 その他に、生前対策として、夫婦間贈与があります。夫婦間の節税として居住用資産の贈与税の配偶者控除というものです。その内容は、婚姻関係20年以上の夫婦間で居住用の土地建物や購入資金を贈与する場合には通常の基礎控除110万円にプラス2000万円が特別控除として認められるというものです。これを利用して自宅の持分を夫から妻に移すケースもあります。

 次に、税金面で問題はないのでしょうか? 今回の場合は、遺言書を用意していてもしていなくても、税金の面では何の問題もありません。相続税には基礎控除が定められており、この基礎控除を相続額が超えてはじめて相続税が発生します。死亡された場合は、

3000万円+(600万円×相続人の数)

となりますので、今回は相続人が3人いますので、相続税を支払うことにはなりません。

 さらに、遺言のあるなしに関わらず、配偶者は1億6000万円の資産を取得しても、課税はされません。これは「配偶者控除」と呼ぶもので、配偶者、すなわち横に資産が移動する際には、課税が大きく免除されるという考えに基づいています。

 以上、身近でよくある相続事例でした。ほんの少しの対策で、相続にまつわるお金の問題を解決することができます。また、お金では買えない家族の絆を考えるきっかけになります。