幸子さんは、武史さんの兄弟にその内容を確認してもらうために、実家に向かいました。遺産分割協議書に実印を押してもらおうと考えたのです。しかし、お兄さんの口からは、想像しなかった言葉が飛び出したのです。

「幸子さん、法律の通りにお願いしたいと思っています。難しいことは私たちにわからないけど。周りの人に聞いたらみんな法律通りにしているみたいだし」

(この人は何を言っているのだろう。お兄さんや弟さんには、関係ないことじゃない! 私と武史さんがやりくりして、頑張ってためてきた遺産なのに)

 そう心で思った幸子さん。その一方で、はじめてことの重大さに気づきました。相続人は自分一人ではないのだと。

 幸子さんのように結婚はしているが子供がいないという人は多くいらっしゃいます。夫が死亡した場合は、夫の遺産はすべて妻が相続するものだと思っている方も非常に多いのが実情です。争う相手もいないと。ところが、子供がいない人が死亡したときの相続手続きは、子供がいる人に比べて、かなり面倒になるのです。

相続を放棄させるには実印が必要になる

 では、法律面から見てみましょう。

 相続人の確認です。配偶者はもちろん相続人です。加えて、子供、その次に、親に相続権がありますが、今回の場合は子供もおらず、親も既になくなっています。従って、次に相続権があるのが、故人の兄弟姉妹となるわけです。

 「法律通り」と言われてしまえば、それをベースに考えなくてはなりません。では、今回の場合は、各人の相続分はいくらになるのでしょう? 配偶者の幸子さんは、4分の3、武史さんの兄弟は、4分の1を二人で分けますので、8分の1ずつの相続分があります。

 武史さんの遺産はといえば、共有名義のマンション4000万円の武史さん持ち分は、2000万円相当。それに加えて預金が2000万円。合計4000万円相当の遺産となります。従って、法律通りにすると、幸子さんには3000万円、兄と弟はそれぞれ500万円が取り分となるわけです。

 そうはいっても、大体の場合は兄弟姉妹の側が、相続を放棄するのではと思われるかもしれません。確かに本当は、「もらっていいのかな?」という気持ちがあるはずです。ところが、ご家庭の事情もあるでしょう。子供が大学進学でお金がかかるとか、住んでいた家をリフォームしなきゃいけないとか。こんな時期に、「相続財産がもらえる」というのはありがたい法律なんです。

 だから、実印を押してもらおうと思っても、渋ってしまうわけです。納得がいかなければ、争うことになってしまいます。

 今回の場合は、幸いにも預金があるので、それを兄弟への取り分にあてることができます。一方で、住んでいる自宅以外に目ぼしい資産が無い場合には大変な事になりかねません。長年住んでいた自宅を売却することも視野に入れなくてはならないのです。ご主人を亡くしたうえに、このような負担がのしかかってくるわけです。