糸井重里さんが主宰するウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」は今年で20周年を迎えた。コンテンツや商品の幅が広げ、さまざまなイベントも開催している。またほぼ日は、2017年3月には東京証券取引所のジャスダック市場に上場した。

 ほぼ日を率いる糸井さんは、事業、人、組織、上場、社長業について何を考え、どのように向き合ってきたのか。糸井さんに語ってもらった内容を一冊にまとめたのが書籍『すいません、ほぼ日の経営。』だ。

 本書の中にある糸井さんの言葉の数々には本質的な考えが数多く散らばり、働き方や会社のありようにとどまらない示唆に満ちていた。本連載では、糸井さんやほぼ日を知る人に、『すいません、ほぼ日の経営。』をどう読んだのか、そして企業としてのほぼ日や経営者としての糸井さんをどう見ているのかを聞いた。

 連載第1回に登場するのはレオス・キャピタルワークス社長でありCIO(最高投資責任者)の藤野英人氏。レオス・キャピタルワークスは現在、ほぼ日の発行済み株数の6.27%を保有する株主でもある。投資家として、また経営者として、藤野氏にとってほぼ日と糸井さんの魅力は何か、話を聞いた(今回はその前編)。

 またツイッターなどのSNS(交流サイト)で、「#すいません経営」を付けて、本書の感想や印象に残った言葉をつぶやいていただければ、余すことなく著者の川島さんと糸井さんにお届けします。詳しくは特設サイト「すいません、ほぼ日の経営。を読む」をご覧ください。

レオス・キャピタルワークスの藤野英人社長(写真左、撮影/竹井俊晴)
レオス・キャピタルワークスの藤野英人社長(写真左、撮影/竹井俊晴)

藤野さんと糸井さんは、どんなきっかけで知り合ったのでしょう。

藤野氏(以下、藤野):僕が書いた『投資家が「お金」よりも大切にしていること』という本を、ほぼ日の人が読んで、糸井さんに紹介してくださったのです。それでお会いしたところ、「この話は僕が聞くだけじゃもったいないから、乗組員にも聞かせたい」となり、ほぼ日の皆さんに話をしたんです。

 後から思ったのですが、糸井さんは、社員が薦めた本をひょいと読む人だなあ、と。それ以降、お付き合いを続けてきて、ほぼ日が上場した時には、僕たちの会社は投資家として株主になりました。

藤野さんは、どういった点にほぼ日という会社の価値を見いだしたのでしょう。

藤野:ほぼ日は、普通の会社と全然違います。「新しい資本主義」とでも言うのでしょうか……いや、「本来の資本主義」と言う方が正しいのかもしれませんね。

 というのも、糸井さんは会社を「船」にたとえて、社員を「乗組員」と呼んでいます。ご存知かと思いますが、そもそも資本主義は、まさに船から始まっています。

 15世紀半ばから17世紀にかけての大航海時代、欧州各国では、船に荷を積んで航海するビジネスが活況を呈しました。

 ただ、船が嵐で沈んだり、海賊にやられたりするリスクも大きかった。そこで、一隻の船を複数のオーナーで所有して、リスク分散していたのです。オーナーは船に投資して所有はするけれど、実際に船に乗るのではなく、船長が航海を任されていた。これが株式会社の始まりです。船長が社長であり、乗組員は社員です。

 もう少し株式会社のルーツを説明すると、そもそも世界最古の証券取引所はオランダの「アムステルダム証券取引所」で、誕生のきっかけは1602年、「オランダ東インド会社」の設立でした。つまり株式会社の始まりは船を使った貿易事業だった。会社で取締役を「ボードメンバー」と言いますよね。あの「ボード」は、実際に舟板を指しているのです。

船のオーナーが株主だとすると、船長である社長の果たす役割は何でしょう。

藤野:船が向かう方向について大きな指示を出すことです。同時に、乗組員にも最大の働きをしてもらわなければならない。みんなで心を合わせて目的地に到着し、現地で商売をして帰ってくること。

 しかも船長は、人気と信用がないと成り立たない仕事でもあります。船のオーナーからも乗組員からも「この船長なら大丈夫」と思われる存在でなければならなりません。

 これも、ほぼ日が目指すところと照らし合わせて納得の行くところです。

 私は直接、糸井さんに聞いたことがないので、この事実を知っていて、社員を「乗組員」と呼んでいるのかは分かりません。ただ糸井さんは、ものすごく勉強家ですし、無意識のうちに本質的なものをつかむ、抜群な力を持っているんです。

 「経営のことはよく分からない」と言いながら、多方面から深い勉強をしている気配がある。ですから、糸井さん流の言い方をすると、「うっかり(糸井さんを)ばかにしちゃいけないんです」(笑)。

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