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水曜ミーティングで見た糸井さんの本気

加藤さんも、自分の会社をそのような組織にしていきたいと考えているのでしょうか。

加藤:僕は編集者なので、アーティストではないんです。でも常にクリエイターの側にいる存在なので、目指したい方向性は似ていると思います。おこがましいんですけど。

 僕らは編集とかクリエイティブの新しいフレームワークや、新しい流通の仕組みを作ろうとしているんです。つまり、たくさんのクリエイターが活躍するための場所をつくってるんですね。

 そういう場所をつくるチームは、やはりクリエイティブを理解する必要があるし、自分たちもクリエイティブである必要があると思います。だから、そういう組織にしたいですね。

 糸井さんは、人間の幸福についてずっと考えていますよね。生活というものに特に注目しているのも、だからでしょう。実際、糸井さん本人も普通の生活を送っています。ジャムを煮たり、あんこを作ったり。その中に、楽しみとか喜びをみつけている。

 そして、あらゆる日常でそれをやっているのだと思います。糸井さんは「あそこのお店がこう変わった」「あそこの看板はこうだ」とか、ものすごくよく周りを見ています。もう習慣なんでしょう。

 最近思うのは、それこそがクリエイティブの正体かもしれないなということです。

 つまり、クリエイティブに生活して、クリエイティブな人生を送っていると、その結果としてクリエイティブなアウトプットが出る。クリエイティブって、静的なものではなくて、そういう姿勢からもたらされる、動的なものなんだなと思います。

 ただ、それを続けるには、すごい知性と意思が必要です。たぶん、糸井さんはどこかで「クリエイティブに生きる」ことを決めたんだと思うんです。そして、それを実際に何十年も続けている。そんな糸井さんの生き方と、ほぼ日の経営は、シームレスにつながっているように思います。

 僕がほぼ日の経営において、糸井さんを特にすごいなと感じていることが2つあります。1つは糸井さん本人のコラム「今日のダーリン」です。あれを毎日書いているというのは、本当におそろしい偉業ですよね。文章を少しでも書いたことがあるひとはわかると思いますが、あんなことは普通できないですよ。

 あれは多分、クリエイティブに生きることの一つの出力でもあるし、あの出力があることによって入力が変わる。だからあれは単なる広報活動ではないと思うんです。

 もう1つが水曜ミーティング。ほぼ日では、毎週水曜日に、糸井さんが社員全員に話をする会があるんです。

 最初、ほぼ日の社員の方からその会議の存在を聞いたときは驚きました。

 組織というのは、人数が増えるに従って、リーダーが考えていることと、会社が目指す方向と、みんなの考えていることというのが、なかなか一致しなくなってきます。僕自身も悩んでいたことがありますし、きっと、あらゆる会社が抱える普遍的な悩みなのだと思います。

 水曜ミーティングの存在を知った時、ある社員のかたに聞いたんです。まず「社員がみんな参加するんですか」と。すると「ほとんど全員出ます」と言う。それも1時間以上話すという。

 それから、「それっておもしろいんですか?」とも聞きました。だって毎週1時間以上話すんですよ。少なくとも、僕にはおもしろくできる自信はありません。ほぼ日の社員のかたは真顔で、「おもしろいです」と言いました。

 実際に、取材のために水曜ミーティングに出させていただくようになって、すごくおもしろくて驚きました。それもそのはずで、糸井さん、かなり気合をいれてやっているんです。

 時々、水曜ミーティングに早く着くことがあるんですが、社員が集まる前の大きな講堂で、糸井さんが真剣な顔でiPhoneや手帳を見ながら、ぽつんと一人で座っています。

 これから話すことについて考えているんだと思います。これはもう、見てるだけで背筋が伸びます。