糸井重里さんが主宰するウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」は今年で20周年を迎えた。コンテンツや商品の幅を広げ、さまざまなイベントも開催している。またほぼ日は、2017年3月には東京証券取引所のジャスダック市場に上場した。
ほぼ日を率いる糸井さんは、事業、人、組織、上場、社長業について何を考え、どのように向き合ってきたのか。糸井さんに語ってもらった内容を一冊にまとめたのが書籍『すいません、ほぼ日の経営。』だ。
本書の中にある糸井さんの言葉には本質的な考えが数多くちりばめられており、働き方や会社のありようだけにはとどまらない示唆に満ちていた。本連載では、糸井さんやほぼ日を知る人に、『すいません、ほぼ日の経営。』をどう読んだのか、そして企業としてのほぼ日や経営者としての糸井さんをどう見ているのかを聞いた。
連載第5回に登場するのはピースオブケイクの加藤貞顕社長。糸井さんはほぼ日で、新しい企業のあり方を模索し、若い経営者にも影響を与えている。ピースオブケイクの加藤貞顕社長も糸井さんに影響を受けた経営者の一人だ。加藤社長に糸井氏との出会いやほぼ日の経営について話を聞いた(今回はその後編)。
またツイッターなどのSNSで「#すいません経営」を付けて、本書の感想や印象に残ったフレーズをつぶやいていただければ、余すことなく著者の川島さんと糸井さんにお届けします。詳しくは特設サイト「すいません、ほぼ日の経営。を読む」をご覧ください。

インタビュー前編の「『ほぼ日』は糸井さんのアート作品だ」で、加藤さんはほぼ日を「やさしい組織」と表現しました。具体的にほぼ日は、どんな組織なのでしょうか。
加藤氏(以下、加藤):会社をはじめて1年後に、前回話したインタビューをしたんです。記事にもあるんですが、その中で経営とかマネジメントが分からなくて悩んでいることを伺いました。そこで糸井さんに「加藤さんは社員を弟子だと思ってない?」と言われたんです(詳細は「社員を育てる、ということ。」)。
その時は糸井さん自身がかつてはそうだった、という話をしてくださいました。個人事務所時代には、コピーライターとして弟子の作品に赤字を入れまくったり、100本ノックのようなことをしたりしていた、と。
でも会社として大きくしていく段階で、それは違うんだということを学んだという話をしてくださったんです。
その後、糸井さんの会社はどうなったかというと、経営者や社員同士が、家族とも違うけれど、「社員であり仲間である」という関係を新しくつくり上げていっています。
糸井さんは社員のことを、「乗組員」と言っていますよね。仲間だし、友達なのかもしれない。その辺の定義は厳密には分からないのですが、上場した今は、その枠を広げているところなんだと思うんです。ほぼ日のお客さんを含めて、そういう関係になろうとしているじゃないでしょうか。
そういった組織作りは、もちろん糸井さんの意思でやっているんでしょうし、あとはパーソナリティの部分、やさしさとかそういう根本にあるものが、関わり合って結果的にそうなっているんじゃないかなと思います。うまく説明できたか自信がないのですが……。
「やさしい組織」を作るのは、なかなか難しいことですよね。
加藤:難しいですよ。ぬるま湯みたいなことばかりしていたら、会社は潰れますし。
「おもしろい組織」というのもそうですよね。糸井さんは「やさしく、つよく、おもしろく。」とおっしゃっているけれど、「やさしい」と「おもしろい」は、商売ではムダになることもあり得る要素です。
「やさしさ」と「おもしろさ」を両立させて、同時にそれをしっかりとしたビジネスにする。これはすごく難しいことだし、糸井さんというアーティストが会社を経営しているからできることで、ほぼ日の大きな強みだと思います。
これは僕の想像ですが、糸井さんは、ディズニーのような会社を目指しているんだと思うんです。
現在のディズニーに、創業者のウォルト・ディズニーはもういないけれど、会社には彼の精神が宿っていますよね。ディズニーの精神がどんなものかは、僕らであってもなんとなく頭に描くことができますよね。それと同じようなことを、糸井さんもほぼ日でしようとしているんだと思うんです。
たいへんなことですよね。ディズニーという会社は、やっぱりウォルト・ディズニーのアート作品だったと思います。過去には経営的に落ち込んだ時期もあったけれど、(映画「トイ・ストーリー」などを生み出した)ピクサー・アニメーション・スタジオのような新しい血を入れて復活して、ちゃんと元気に続いているわけです。日本の会社だと、任天堂も似たタイプの会社ですよね。
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