糸井重里さんが主宰するウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」は2018年に20周年を迎えた。コンテンツや商品の幅が広げ、さまざまなイベントも開催している。またほぼ日は、2017年3月には東京証券取引所のジャスダック市場に上場した。

 ほぼ日を率いる糸井さんは、事業、人、組織、上場、社長業について何を考え、どのように向き合ってきたのか。糸井さんに語ってもらった内容を一冊にまとめたのが書籍『すいません、ほぼ日の経営。』だ。

 本書の中にある糸井さんの言葉の数々には本質的な考えが数多く散らばり、働き方や会社のありようだけにはとどまらない示唆に満ちていた。本連載では糸井さんやほぼ日を知る人に、『 すいません、ほぼ日の経営。』をどう読んだのか、そして企業としてのほぼ日や経営者としての糸井さんをどう見ているのかを聞いた。

 連載第4回に登場するのは伊藤忠商事の岡藤正広会長CEO(最高経営責任者)。私が所属する伊藤忠ファッションシステムの親会社のトップを務める。糸井さんを紹介したのをきっかけに、二人は何度か話を重ねている。規模や分野は異なるが、会社を率い、人を率い、世の中にその価値を問い続けているところには共通したものがある――私はそんな風に感じていた。岡藤会長に、糸井重里さんの人となりやほぼ日という会社について話を聞いた。

 ツイッターなどのSNSで「#すいません経営」を付けて、本書の感想や印象に残ったフレーズをつぶやいていただければ、余すところなく著者の川島さんと糸井さんにお届けします。詳しくは特設サイト「すいません、ほぼ日の経営。を読む」をご覧ください。

伊藤忠商事の岡藤正広会長CEO(撮影/柴田謙司)
伊藤忠商事の岡藤正広会長CEO(撮影/柴田謙司)

『すいません、ほぼ日の経営』を読んで、どんな感想をお持ちでしょうか。

岡藤会長(以下、岡藤):糸井さんが意図するところは、社員一人ひとりが生きがいを持って働き、世の中にいろいろなものを発信して、きらりと光る存在となっていきたいということ。こういう会社が上場したことは、非常に大きな意義を持っていると感じました。

 これからの時代には、規模は小さいながらも、ほぼ日のような会社が違った形で次々と出てくるのではと期待しています。

 上場企業の場合、どうしても業績を上げることが優先しがちです。けれどほぼ日は、上場後も経営の指標を「幸福度」に置くなど、新しい会社のあり方を探っています。これは、今までとは異なる領域を切り拓くと言ってもいい。僕らが参考にできることがたくさんあります。

例えば、どんなことでしょう。

岡藤:ほぼ日では、3~4カ月に1回の頻度で席替えをして、社員同士が交流するそうですね。そうすることで、同じような考え、同じような趣味、同じような理想を共有することができる。いわば「仲間」として会社をつくっていくことになります。

 うちの会社でも「社員は家族」と掲げて、がんに罹った社員のケアをする制度を設けたり、社員寮を充実させたりするなど、いくつかの施策を打ってはいます。それを糸井さんはさらに本格的に実践しているのでしょう。

 これからの時代、企業が利益を出すのはもちろんのこと、世の中から評価されることが大切です。良い会社で働いていることで社員は会社に誇りを感じるでしょうし、社員の家族も誇りに思うようになるのではないでしょうか。

社員が誇りを感じるためには、どんなことが必要ですか。

岡藤:儲けながら、世の中の人気を得て、評価される企業になること。それをもっと考えていかなければいけません。

 糸井さんは週に一度、社員に向けて直接、自分の考えを伝える会を設けています。これも、社員のみんなが会社の向かう方向を理解し、進んでいくために大事なことです。

 大企業になると、仮にトップにそういう思いがあっても、なかなかそれを実践できなくなっていきます。けれど、私は糸井さんがほぼ日でやっていること、やろうとしていることを参考に、我々の会社も、もっといい会社にすることができると感じました。

 ただ、上場したほぼ日が、その存在を広く世の中に知らしめていきたいと思ったら、これからはある程度のパワーが必要になります。優秀な人間をそれなりの人数、確保することも大事です。あるいは小さくても強烈なものを出し続けていかなくてはならない。これは、そう簡単なことではありません。そのあたりを糸井さんがどうクリアしていくのかがとても楽しみです。

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