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 給与や賞与の額が増えても、それを上回るペースで税金や社会保険料の額が引き上げられていたら、可処分所得は当然、減る。加えて、2019年には「消費税10%」、2020年には「会社員給与所得控除の改正」と、会社員いじめの“増税ラッシュ”が続く。そんな“取られっぱなし”の状態を放っておいていいのだろうか。

 この連載では、会社員が所得税や相続税といった「税負担」を減らすための“ツボ”と、策を講じて失敗しやすい“ドツボ”を、具体的な事例を交えて分かりやすく紹介する。

 今回は生前贈与をしっかり計画して実行したつもりが、空振りに終わってショックを受けたHさんの家庭の事例から、「贈与税」に関して考えてみる。

(【監修】税理士法人ティータックスパートナーズ
/青山人事コンサルティング株式会社 佐藤 純)

 日本の相続税は1950年の最高税率90%をピークに徐々に引き下げられたが、2003年の改正で50%になった最高税率が2015年にはまた55%へとアップした。実際には様々な控除があって、課税財産の半分以上を持っていかれることにはならない。

 それでも仮に課税財産が7億円(最高税率適用)で相続人が1人しかいないとすれば、「(7億円-基礎控除3600万円)×55%-控除額7200万円=2億9320万円」となり、3億円近くを納税することになる。

 だからこそ皆が節税に躍起になるわけだが、必ずしもうまくいかないケースも多いようだ。

 相続税の節税策として最もポピュラーなのが「暦年贈与」だろう。贈与税には年間110万円の非課税枠があり、暦年(1月1日~12月31日)ごとにこの非課税枠の中で贈与を行っていく方法だ。毎年一定額の贈与を続ければ、相続財産を減らせるわけである。

 しかし、この暦年贈与を「年間110万円以下なら、贈与税はかからないわけか。簡単じゃないか」と甘く考えると、痛い目に遭う。

 そうした一人がHさんだ。

「年間110万円以下なら大丈夫」のはずが……

 上場企業で役員を務めたHさんは、財産分与の一環として、妻と相談のうえ、2人の息子とその嫁、そして4人の孫たち計8人名義の通帳を作成し、そこに毎年110万円ずつ振り込んでいた。年間110万円以下なら課税されないと考えていたからだ。

 Hさんは、暦年贈与を始めてからちょうと10年後に亡くなった。それまでに振り込んだ総額は8800万円に上った。だが、この暦年贈与は認めらず、8800万円はHさんの相続財産とみなされてしまった。計画的に、10年も続けていたのに……。

 節税策が不発に終わった理由は、Hさんとその妻が暦年贈与の制度を正しく理解していなかったことにある。

 暦年贈与に当たっては、当事者間でいつ、誰から誰に、いくらを贈与するという認識を共有しておくことが必要だ。にもかかわらず、Hさんは2人の息子に「お前と家族に暦年贈与をしようと思う」と口頭で伝えただけだった。

 具体的な内容についても話しておらず、税務署は真っ先にそこを突いてきた。全員分の通帳や印鑑、キャッシュカードをHさんの妻が保管していたことも災いした。

 Hさんはいわゆる家父長的な存在で、家族間の決めごとには絶対的な権限を持っていた。妻や息子がHさんの指示に逆らうことはほとんどなく、暦年贈与に関しても「家長の自分が分かっていればいいと考えたのではないか」と息子は推測する。