短いパンツの経済人

あらためて堤清二さんは、どんな人物だったと思いますか。堤さんとセゾングループが発揮した創造力のようなものが、今の日本には足りないような気もします。

小池:青年期に日本の復興があって、繁栄に向かっていくという、時代の申し子というか、時代との関係がものすごく濃密にあった方だと思います。例えば戦前にはロシアで社会主義革命が起きて、そして日本は敗戦するという歴史を目の当たりにして、堤さんは非常に社会主義的な思想を持って現実社会に切り込んでいくわけですよね。そういうことがなければ、商品文化でアンチテーゼなんて、誰も考えませんよね。

そうですね。現状否定みたいな発想が強かったですね。

小池:堤さんが世の中に対して持っていた、ミスフィット感というのがあると思います。財界などでは、大企業のトップとして、自分もエスタブリッシュメントになることを求められている立場ですよね。そこに何か自分はそぐわないというような気持ちでしょう。「ほかの人は長いズボンをはいている。僕だけ短いパンツをはいているように思われている」と話していました。

それは経済界の中で。

小池:そうです。だから堤さんがよく参加していた、経済同友会の中では、何人かの方とは話は弾むんだけれども、ほとんど自分の居心地のいい世界ではないと感じていたようです。

堤さんは作家「辻井喬」としても一貫して小説や詩を書いていました。やっぱり、ご本人としては、クリエーターサイドでいたかったでしょうね、ずっとね。そうでなければミスフィット感というのはないんじゃないですか。成功した経済人として過ごすこともできたわけですが、そこに満足できなかった。

そうしたミスフィット感がいろいろな創造のエネルギーでもあったわけですよね。

小池:そうなんですね。それがあるので、例えば文化のほうでは現代音楽の武満徹さんにしても、作家の安部公房さんにしても、すごい方たちの実質的なサポートをしたわけですから。そのために劇場をつくり、美術館もつくりました。そうしたアーティストたちが表現できる場をつくるという。これは、本当に堤さんがクリエーターであって、経営者であったからできたことだと思うんです。そうしたアーティストの芸術性を理解して広めるということについては、経営者としてできることをしようと思われたのでしょう。時代の文化の価値をつくるということです。