
第2回は、何徳旭・CASS財経戦略研究院院長の論文です。何氏は、中国金融制度や金融イノベーション、金融資本市場などを専門領域としています。中国金融学会常務理事や中国財政学会常務理事などを歴任するなど、中国の金融研究における重鎮といえます。
この論文は、世界からの注目を浴びている中国のインターネット金融に関するものです。中国のインターネット金融に関して、①発展の系譜、②急速な発展の背景及び、③課題の所在、そして④未来像と、網羅的に取り扱っています。
日本においても近年Fintechに関する取り組みが進展していますが、成長著しい中国のインターネット金融とはどのようなものなのでしょうか。解説では、中国のインターネット金融に関する事例を挙げていますので、具体的なイメージを膨らませながら読んでいただくと理解がしやすいかと思います。
(大和総研 金融調査部研究員 矢作 大祐)
1.インターネット時代における金融の新たなビジネスモデル
中国のインターネット金融は、1990年代に金融機関が効率化を図るためにインターネット技術を導入し、従来の金融業務をサポートする「金融+インターネット」から始まった。

具体的には、1997年の招商銀行によるオンラインバンキングの設立がその始まりとされている。この中国初のオンラインバンキングは、1994年4月に設立された米国のSFNB(Security First Network Bank)に次ぐものであり、主にマーケティング、顧客サービスなどの業務を展開することを通じて、オフライン業務をサポートする。この段階のインターネット金融は、従来の金融機関が主導権を握り、インターネットは単なる手段として使われたに過ぎず、金融ビジネスのイノベーションを実現することはできなかった。
他方、近年のインターネット金融の担い手は、インターネット企業である。インターネット専業の企業が登場し、とりわけeコマース企業の飛躍的な発展により、第三者決済サービス(訳者注:銀行や既存の金融機関とインターネット企業が協力しながら、モバイル決済・オンライン決済サービスを提供。具体的にはアリペイなどが代表例)が著しく成長した。
何氏は、中国のインターネット金融の系譜に関して、1990年代と現在の比較を行っています。1990年代の特徴は、伝統的な金融機関が主導して、金融サービスのオンライン化を進め、顧客の利便性を向上するケースが多かったと言えます。他方で、現在のインターネット金融は、巨大IT企業が主導しています。例えば、タオバオというEコマースサイトを運営するアリババや、QQやWechatといったSNSサービスを手掛けるテンセントは、その代表例です。
インターネット金融の中でも、発展著しいのはスマートフォンを利用したモバイル決済です。中国のコンビニエンスストアでは、QRコードをスマートフォンアプリで読み込んで、決済を行う人が増えています。市場規模は2017年上半期で42兆元(日本円で700兆円強)の規模まで膨らんでいます。このモバイル決済サービスは、前述のアリババの系列会社が提供するアリペイや、テンセントのWechat Payが有名です。
アリババは、11月11日に大セールを開催しますが、その決済の多くはアリペイで行われます。また、中国の旧正月には日本のお正月と同様に、お年玉を渡す文化がありますが、現在はWechat Payの電子マネーでお年玉を送りあうことが一般的です。中国の一般消費者にとって、モバイル決済はすでに欠かせないものになっていると言えます。
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