最終回となる第5回では、中国の所得分配と格差問題を取り上げます。

 急成長を続け、将来的にはアメリカのGDPを追い抜く可能性もあると言われる中国ですが、格差が広がり、社会的安定の維持が大きな課題となっています。

 GDPの拡大によって低所得層の所得が底上げされ、皆が成長の果実を実感すれば、社会的緊張が緩和され、格差が社会不安につながる可能性は小さくなります。しかし、中国は生産年齢人口がすでに減少局面に入っており、日本と同じく人口オーナス期を迎えています。

 人口動態の変化により、経済成長率の趨勢的な低下が不可避であるとすると、その中での格差拡大は社会的安定を失わせる重大なきっかけとなりかねません。今回の人口・労働問題研究所の張車偉所長と趙文副研究員のコラムは、中国の格差拡大の背景と政府が行うべき所得分配政策についての論考です。解説を挟みながら、ご紹介していきます。

(大和総研経済調査部 齋藤尚登主席研究員)
張車偉氏(左)
1964年生まれ、河南省出身。中国社会科学院 人口・労働経済研究所所長、研究員。中国労働経済学会会長、中国人口学会副会長、雑誌「中国人口科学」編集長、雑誌「労働経済研究」副編集長。人口学、労働経済学、関連分野の研究に30年近く携わり、「中国社会科学」、「経済研究」、「世界経済」、「中国工業経済」、「経済学季刊」、「人口研究」、「China Economic Review」等、国内外の学術刊行物にこれまで200本以上の論文を発表している。第11回孫冶方経済科学賞(中国国内における経済学の最高の賞)、全国人口・計画出産ソフトサイエンス特等賞など、国や省レベルの褒賞を20以上授与されている。
趙文氏(右)
1982年生まれ。中国社会科学院 人口・労働経済研究所副研究員、修士課程指導教員、管理学博士。研究分野はマクロ経済、所得分配。労働分配率や年齢構造と経済成長など、人口動態と労働市場に関する論文多数。

 2017年の中国の1人当たりGDP(国内総生産)は5万9660元、米ドル換算(1ドル=6.3人民元)では9470ドルとなり、中国は確実に中所得国の仲間入りを果たした。同時に中国の産業構造はさらに合理的になり、経済成長パターンは持続可能性を増し、社会発展のビジョンはより明るくなった。

 しかしながら、いかにして改革と発展の成果を、より多くより公平に国民全体に行き渡らせるのか、如何にして国民全体の共同富裕を実現するのか、という問題は、一貫して我々の前に横たわる難題である。

 これを解決するには、合理的で秩序のある所得分配制度を確立することが不可欠となる。中国共産党第十九回党大会の報告は、「労働に応じた分配の原則を堅持し、生産要素に応じた分配の仕組みを整備し、所得分配がより合理的で秩序あるものとなるように促す。法律を守り勤勉に働くことによって豊かになることを奨励し、中間所得層を拡大し、低所得層の収入増加を図るとともに、高すぎる所得を調節し、不法所得を取り締まる。経済成長と比例した個人所得の増加を実現し、労働生産性の向上と比例した労働報酬の増加を実現することを堅持する。個人の勤労所得と財産所得のルートを広げる」とした。これが、今後、党が所得分配改革を実施する上での方向性を示している。