理念継承にもう一度、力を注ぐ

社長就任から約1カ月。実際にトップに立ってみて、どのようなことに気が付きましたか。

安達氏:社員の皆さんは本当にまじめにお客様のことを考えて、日々努力し、実践している。それを再確認できて、一番うれしかったし、安心しました。現場に行って話を聞いてみると、みなさん、喜々として自分が取り組んでいることを説明してくれる。おそらく、今までの社長は、あまりそのようなことをやっていなかったのかもしれません。

トップと現場に、かなり距離があった。

安達氏:あったんでしょうね。ですから、これまでホールディングスにあったCxO(チーフ・○○・オフィサー)というのもやめました。これまで分野ごとに7人ほどいたのですが、ホールディングスにあまり重層的な組織を作ると、それだけ現場との距離が遠のきますからね。優秀な人は、現場に入って仕事をすべきだと思います。ホールディングスの組織は小さくし、現場にもっと権限を委譲して事業を進めていく形に変えました。現場が一番、お客のことを分かっている。それが過去、若干、流れが逆になっていた。

再び、ダイレクトマーケティングを強化する方針を掲げています。大規模な個人情報漏洩を受けて、原田・元社長は「脱DM(ダイレクトメール)」路線を掲げましたが、方針を大きく転換するのですか。

安達氏:個人情報漏洩のあと、潜在顧客リストをまずは使わないことにした、あるいは、脱DMというキャッチフレーズでスタートしたわけですが、やはり非常に難しい。過去に蓄積した非常に優れたマーケティング手法をやめてしまうというのは、非常に厳しかったわけです。個人情報を漏洩してしまったので、確かに潜在顧客リストを使わないという決断は、仕方がない面もあったとは思いますが。

再び、消費者から「押し売り」ではないかと反発される懸念はありませんか。

安達氏:やり方の問題だと思います。ダイレクトマーケティングというのは、世の中で確立された手法ですから。どこの企業にとっても、潜在顧客に直接訴求するダイレクトマーケティングというのは、非常に効果的な販売手法です。二度と、情報漏洩を起こさないという体制作りに最大限注力しつつ、長年蓄積してきたダイレクトマーケティングをもっと研ぎ澄まされた形で展開していくことになると思います。

教育、介護に次ぐ第3の柱を大型のM&Aによって獲得するということも表明しています。いつ頃までに実施する考えですか。

安達氏:大きなM&Aをやるには、まずは会社の財務体質やキャッシュフローをしっかりと作り込む必要があります。それには、早くても2~3年はかかるでしょう。

足場を整えたうえで、「ベネッセ(よく生きる)」という理念の枠組みに当てはまる第3の柱をM&Aで獲得するということですか。

安達氏:そうですね。「よく生きる」というのは、非常に広い概念です。ベネッセは、人の人生を良くするための事業に対して、熱く燃える人たちの集合体ですから、その軸はぶらさないことが重要だと思います。

 ベネッセという会社の名前に表されている「よく生きる」というビジョンを作った福武さんの功績は大きい。これがあるから、介護のような事業も始めることができた。創業者である福武哲彦さんの「福武の心」という本にまとめられたフィロソフィーがあって、そこに事業としてのビジョンである「よく生きる」がある。

 一般論として、会社にとって軸となる企業理念があることは、すごくいいことです。社員は、それで一丸となって動くことができますから。ベネッセも、理念の継承を一生懸命やっていた時期もあるんですよ。ただ、それがだんだんと薄れてしまったような印象があります。だからもう一回、社員や幹部の教育を通じて、理念の継承をしっかりやりたいと思います。