グローバリズムは狂っている

今、ニュージーランドに住んでいますね。租税回避のためでしょうか。

福武氏:みんな節税のためだとか言うけど、そんな気は全然ない。最初はハワイに行きたかったけれど、ハワイに行くとボケると思った。バンクーバーやシドニーも考えたけど、最終的に、自然が好きなのでニュージーランドになった。

海外に5年を超えて住んでいる日本人にも相続税を課すという検討も始まっているようです。

福武氏:もしそうなったら、(ニュージーランドの)国籍を取るから、関係ないよ。日本への未練は全くない。日本は大好きだよ。本当に大好き。しかし、経済のことばかり考える政治家や経営者がこの国をダメにしている。この国にはもう、将来ないよ。だから、地方から反抗しようと思って、(現代アートの振興を支援する)直島の事業をしているのです。

都会に対して反発がある?

福武氏:そう。だから、直島のプロジェクトには(建築家の)安藤忠雄さんに手伝ってもらっています。都会に対するレジスタンス。東京は大嫌い。メディアも全然わかっていないんだ。狂っているよ。グローバリズムは。国際企業が作った新しい帝国主義ですよ。トランプ氏の気持ちもフィリピンの(ドゥテルテ)大統領の気持ちもよく分かりますよ。

 日本は、人間が生きるためにいちばん大切な食料とエネルギーを海外から買っている。カネさえあれば何でも買えるという発想はおかしいでしょう。そういうことを問題視する経営者も政治家も、ほとんどいない。TPP(環太平洋経済連携協定)なんて、絶対にやってはいけない。

最近は電気自動車(EV)の普及にのめり込んでいますね。

福武氏:最初のきっかけは、(慶応大学で)電気自動車「エリーカ」を開発した清水浩さんに会ってから。世のため、人のために僕は、電気自動車の技術をみんなに提供したい。だから、必要なテクノロジーをオープンソースで広めるような会社を作りたいんです。

ご自身でもテスラを3台、持っていると聞きました。

福武氏:日本に2台、ハワイに1台持っている。マセラッティもEVにコンバートしたし、今度はメルセデスもEVにしようと思っている。

ベネッセの株式の約3割を保有し続けているのは、会社へのオーナーシップを維持したいからですか。

福武氏:オーナーシップを維持したいというより、直島を維持したい。現代アートを通じて世界でも有数の世界観を、一人の男と一つの会社が作った。それを永続的に維持したい。

そのために配当が必要だというわけですか。

福武氏:そうです。永続的に維持するために、結果的にはそうです。

株主として、一番重視しているのは資産価値の向上ですか。

福武氏:株価には関心がない。下がったら、それを反省材料として、また上がっていけばいい。株価が上下するのは当たり前です。僕も、安達さんも、社員も、人を軸とした、こうしたビジネスモデルは他にないと思っている。それを形にしたいと思っているし、失敗を克服できる会社だと思っています。

福武氏の教育事業への関心の低さが漂流の一因か

 福武氏は、カリスマ創業者である父・哲彦氏が急死して急きょ、経営を引き継ぐことになった。継ぐことには「全く興味がなかった」とは言うものの、英会話教室の米ベルリッツを買収し、社名を福武書店から「よく生きる」との思いを込めた「ベネッセ」に変え、上場をし、介護事業にも参入した。現在のような教育・介護の大手に育て上げたのは福武氏の功績であり、「中興の祖」であることに疑問の余地はない。

 だが、長らく福武氏による「創業家ガバナンス」の下で、資本と経営の一体運営を前提としてきたベネッセは、福武氏が経営の一線から退くのとほぼ時を同じくして、漂流している。もちろん、個人情報の漏洩という予期せぬ事態はあったものの、福武氏の教育事業への関心の低さと、社内より社外の人材を重用する傾向が、ベネッセ漂流の一因になっているとも言えるのではなかろうか。そして、日本の教育、そして介護に欠かせなくなった会社の創業家が、なぜ、自らは海外に移住し、他人事のように「この国には将来がない」と突き放すのか。

 中興の祖として絶対的な権力を保持した副作用として、福武氏は満足する後継者を社内で育てられなかった。だから、社外の人材に目移りする。ある元社外取締役は、「福武さんは、社外の派手なプロ経営者がよく見えてしまう。自分にはないものを持っているから、もしかしたら改革してくれるのではないかと」と言う。

 福武氏は、2003年にソニー出身の森本昌義氏をトップに招聘した頃から、ベネッセの経営から徐々に「引退」することを考えていた。そして、自らの関心は次第に直島の事業や電気自動車に移っていった。森本氏の突然の辞任後、社内から福島保氏を社長に引き上げたが、結局は満足せず、2014年に社外から原田氏をトップに据えた。原田氏の辞任後、3カ月間、中継ぎとして社長を務めた福原氏も、元はといえば野村証券出身。そして、今度は外資系ファンド出身の安達氏に経営が託されている。ある関係者は、「『ベネッセ』という理念を掲げながら、結局、それを守ることよりも金儲けがうまい人材を連れてきている。福武氏によるトップの人選は正しかったのか」と疑問を呈する。

 取締役の過半数を社外にし、指名・報酬委員会の決定を重視するというガバナンス強化の潮流に乗りながらも、福武氏は大株主としてトップ人事に大きな影響を及ぼし続けてきた。こうした状況を、経営を託された側はどのように受け止めているのか。現社長の安達氏に話を聞いた。