「マッチョで筋肉隆々、正義が悪を倒して終わり」ではない

そもそも、柳さんはどのような経緯でアメコミに夢中になったのですか。

:子供のころ、父親の仕事の都合でアメリカに住んでいましたが、実はその当時は日本のヒーローが好きでした。ないものねだりというか、アメリカにいるとかえって日本のものが欲しくなるんです。テレビでアメコミのヒーローものを見てはいましたが、ハマるほどではありませんでした。

 それが、日本に帰国して大学生になると、一気にアメコミに夢中になった。きっかけは、「X-MEN」。テレビ東京が「X-MEN」のアニメ版を放映し、それと連動してカプコンが「X-MEN」の対戦格闘ゲームを展開した。ゲームの完成度がすごく高くて、ゲームセンターに通うほどのめり込みました。

それから?

:「X-MEN」のコミックを買いましたね。小プロ(小学館集英社プロダクション)が、「X-MEN」の翻訳版を出していて、ジム・リーという人が絵を描いていた。その絵が、もうめちゃくちゃかっこよかったんですね。

 それから、アメコミの世界にどっぷりと浸かってしまいました。絵だけでなく、ストーリーも衝撃的。以前のアメコミって、「マッチョで筋肉隆々、正義が悪を倒して終わり」のような感じだった。だけど、「X-MEN」はそのイメージを拭い去ってくれた。二元論ではなくて、複雑な構成に驚きました。

具体的に、どのような内容なのでしょう?

:「X-MEN」は、キング牧師とマルコム・Xの公民権運動をベースにしているといわれています。「X-MEN」のストーリーを簡単に言うと、人類にミュータントという突然変異種が誕生。彼らは普通の人たちから忌み嫌われ、恐れられた。そして、ミュータントの強硬派と人類の戦いが始まります。当時、アメリカでは黒人差別に反対する運動がひとつのムーブメントになっていた。「X-MEN」の構図と重なるんですよ。

なるほど。

:こうした人種の対立問題は、単純にいい、悪いで割り切れるものではありません。ミュータントのヒーローは、人々を救っても、社会全体から認められません。そうした状況に、終わることのない苦悩が続きます。

「X-MEN」で特に好きなキャラクターは?

:ミュータントの強硬派で悪者のマグニートーです。彼はアウシュビッツの収容所に入れられ、家族と一族が全員、ガス室で殺されてしまう。自分だけが生き残るわけですが、そこまでつらい思いをすると、人は強硬な手段に出てしまうものだと思います。

 彼の孤独の戦いに、すごく共感を得て…。実は私、学生時代は帰国子女ということで、いじめられた経験があります。英語だけが取り柄で、勉強やスポーツはまるでダメでしたから。そうした時、何か1つ突出した能力があれば、それで道を切り開いていける。そう教えてくれたのが「X-MEN」なんです。

「X-MEN」のほかに、衝撃を受けたヒーローは?

:スパイダーマンを初めて見たとき、「画期的だ」と思いましたね。スパイダーマンはマンハッタンの人々のために戦い続けるスーパーヒーロー。でも、ヒーローでありながら、一市民でもある。すごく貧乏で、苦学生で、家賃が払えない。

 その等身大な設定が、斬新に感じられましたね。マスクの裏に人物がきちんといて、人物像がしっかりと描かれている。彼らも我々と同じような人間で、さまざまな葛藤や苦悩を抱えている。悪を倒せば終わりという、勧善懲悪のヒーローものではないんです。

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