古き良き時代に育ったトップが現場を壊す

現場力の低下を経営側が認識していないのでしょうか。

守島:そうだと思います。1つの理由は、今の経営層の方々というのは、昔の現場で育った人たちだということです。現場でお互いにコミュニケーションをきちんと取り、それぞれの持ち場にリーダーのような人も大勢いて、自然な階層構造ができていました。仲間同士で業務を教え合う感覚も比較的強かった。このような昔の「機能していた現場」観を前提にプロジェクトを組んでしまっているわけです。

 海外プロジェクトでの苦戦も目立ちますが、やはりトップの認識不足が影響しています。現在の経営層の多くは、あまり海外での経験がありません。従って、現場はどこもこういう風に機能しているはずだ、という一種の「妄想」にとらわれています。昔のイメージに引きずられ、現場に大きく依存しているのです。

競争環境は厳しくなる、一方で組織としての人材育成は機能していない、となると、苦しい状況ですね。

守島:日本の多くの現場で起こっていることは、コスト管理や進捗管理がきつくなる中で、余裕を持って物事を学ぶ時間がなくなっている、さらには自由な発想が出てこなくなる、という連鎖です。現場の機能を阻害する方向です。

 昔がよかったと言うつもりはありませんが、ワーク・ライフ・バランスや多様な勤務形態など、働くことへの姿勢や価値観の幅も広がっており、職場のコミュニケーションも簡単ではなくなりつつあります。

 バブル経済の崩壊後に採用が一時かなり絞られ、いびつな年齢構成になってしまったのも響いています。教える側と教えられる側で10歳くらいの差が生じてしまうと、経験上、現場の人材育成や技能伝承が機能しなくなります。下の人は遠慮して質問しにくいし、上の人は逆に、経験の浅い人は何が分からないのか、その辺のツボを忘れてしまいます。

進捗管理は本来、プロジェクトが遅れないようにするのが目的ですが、皮肉にも現場の余裕をなくす一因になっていると。

守島:今の日本企業は人繰りに余裕がなく、プロジェクトを組む際に、必要人数ぎりぎりしかあてがいません。経営学には、組織の余裕を意味する「組織スラック」という言葉があります。非効率との見方もできますが、スラックは何か環境変動が起きた場合の「バッファー」の役目を果たします。

 ところがコスト管理の名目でバッファーがどんどん削られた結果、どの現場もきつきつの状態で動いています。これではちょっとしたトラブルで全部が崩れかねません。さらにいえば、そのしわ寄せが現場の中間管理職に向かっている面も無視できません。