継続できなければヒットもない
製品というか、コンテンツの弱点をきちんと把握し、潰すという基本動作はビジネスの参考になりますね。
森:映画はビジネスです。やってみなきゃ分からない、という乱暴が許されるギャンブルではありません。私たちが目指す最低ラインはリクープメントです。どんなに監督がこれをやりたい、とこだわっても、映画は趣味ではありません。監督生命がなくなっては意味がありません。
ましてプロデューサーの立場からいえば、映画は非常に多くのお金が動くビジネスです。大勢のお客さんを対象にしたエンターテインメントですから、出たとこ勝負ではダメです。成功の精度を可能な範囲で高め、最低限、出資者に損をさせないという結果を出さなければいけません。ただし、それが決して簡単ではないのも事実です。

リクープメントできなければ、有名監督であっても映画が続けられないというのは大変なプレッシャーですね。
森:とにかく「継続」がテーマになります。1回、2回大ヒットしたからといって、その後、5回失敗すれば、いまの時代、監督としては終わってしまいます。当然のことながら継続が不可能になります。いかに優れた作品、才能を国際的に評価された監督であろうとも、やがて映画を撮れなくなってしまいます。
ビジネスにおけるリクープメントは、差し引きトントンを意味します。利益は上がらなかったのかもしれないが、少なくとも損失もない。それならばなんとか継続はできる。継続さえできれば、ヒット作を生むチャンスをまたもらえる。一見、守りに聞こえるかもしれませんが、攻めるためにはまず継続が大前提です。
映画はスケジュールや予算などの制約条件が当然あります。当初想定しなかったアクシデントなどに見舞われるリスクもあると思います。どう対処していますか。
森:北野作品、全18作において実はスケジュールオーバーは1度もありません。北野武は映画監督だけでなく、ビートたけしとしても活動しています。テレビのレギュラー番組も抱えており、今のところテレビ週と映画週という具合に隔週で本人のスケジュールを組んでいます。
スケジュールオーバーでそのサイクルが狂うと、映画とテレビの両立が難しくなります。遅延は許されません。そこで非常に優秀なスタッフが、雨の場合はどうする、お盆など繁忙期で遠隔地でのロケが移動の面から難しい場合はどうする、といった面まで含め、あらゆる事態を想定して計画を立てています。雨が降った場合の代替策、予備日などのスケジューリングなども万全を期しています。
予算面でも、第三者の視点で非常に厳しいチェックが入ります。現場の事情とは一歩距離を置いた立場から、不自然な支出、合理的でない支出を防ぐためのチェックです。予算オーバーはある意味、(出資者との間での)契約違反ですから。
予算オーバーはリクープメントのハードルを製作サイドが勝手に上げてしまうことを意味します。やはりガラス張りの経理が大切です。なし崩し的に何だか分からないがお金が出ていく、という状態は、私たちでは許されません。
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