英ニューカッスル大学の行動生物学者が実施した有名な心理実験がある。大学の共有スペースに誰でも利用できるコーヒーポットを設置した。飲みたい人は隣に置いてある箱に代金を自主的に入れる。ポットを管理する人はその場にいないので、代金を払わない者もいる。だが、ポットの上に「目の写真」を貼ると、支払い率が3倍近くに跳ね上がった。「見られている」と意識するだけで、人は品行方正になると研究者は結論付けた。

新宿・歌舞伎町の入り口に立つ看板。中央に防犯カメラが見える

 今、日本中で「目」が増殖している。正確な統計はないが、本誌は様々な資料を基に国内にある防犯カメラの総数が500万台近くに達していると推計した。

 綜合警備保障(ALSOK)が実施した意識調査では、「10年前に比べて、防犯カメラが増えたと思いますか」という問いに、「とても増えたと思う」「やや増えたと思う」と回答した人は合わせて75%に達した。日常的に防犯カメラの増加を感じている人が大半だ。

歌舞伎町に死角なし、犯罪半減

 犯罪捜査の現場では、防犯カメラの映像が重要な捜査資料になっている。今夏に発生した大阪府警富田林署の容疑者逃走事件では、府警は容疑者が映っている映像を公開し、広く情報の提供を求めた。捜査員は犯行現場の周辺を地道に歩き、防犯カメラを設置している商店街や商業施設、民家などから任意で映像の提出を受け、内容を確認している。

 警察自身が運用する防犯カメラもある。犯罪の抑止に有効だとして、2000年代に入ってから設置が本格的に始まった。例えば日本有数の歓楽街、新宿・歌舞伎町では現在、警視庁が55台のカメラを運用する。映像は東京都江東区にある警視庁の生活安全カメラセンターに送られ、24時間体制で「不夜城」を見張っている。

 歌舞伎町商店街振興組合の城克事務局長は、「町にほぼ死角はない。すべてが見えているので屋外では問題を起こせない」と語る。

 設置が始まったばかりの15年程前、歌舞伎町で年間2000件あった刑法犯の認知件数は、違法風俗店などの摘発強化と相まって、今では半分以下の水準で推移する。城氏は「暴力団同士のトラブルがあっても、仲間の組員が応援に駆けつけるより先に、映像で異変を察知した警官が到着する。防犯カメラの効果だ」と話す。