日経ビジネスは11月12日号で特集記事「ここまで来た監視社会」を掲載した。記事では主に米中の先進企業を紹介したが、テロ対策のために軍と企業が深く結びつくイスラエルも監視ビジネスの最先端に立つ国の1つだ。「スタートアップ大国」とも呼ばれるその特性から、企業規模は決して大きくないが、技術力は米中にも劣らない。

米アップルの「iCloud」ロックも解除可能

 メールや写真は言うに及ばず、位置情報やウェブの検索履歴まで次々と画面に映し出されていく――。

 携帯電話のデータ解析ツールを開発するイスラエルのセレブライト。A4ノートほどの小さな機械に記者の私用のスマートフォンを試しにつないでもらったが、まるで自分の頭の中をのぞかれているような気分だ。既に消したはずのデータでも、メモリーから完全に削除されていない限りは復元可能で、記者が初めてスマホを購入した2009年のデータも一部残されていた。「スマホは自分の部屋以上にプライベートな空間。最初は涼しい顔をしていても、段々と青ざめていく人は多い」。記者のバツの悪そうな表情を横目に、セレブライトの担当者は苦笑いした。

記者のスマホを解析するセレブライトのフォレンジックツール

 データを復元・解析するフォレンジック(電子鑑識)機器は警察の捜査や、企業の内部不正調査で必須のツールとなっている。その中でも、セレブライトは異色の存在だ。通常のフォレンジックは「調査する機器のパスワードが分かっていることが前提」(大手フォレンジック業者)だが、セレブライトはスマホのパスワードロックを解除できる技術を持つ。つまり、本人の同意がなくてもスマホの中身を探ることができる。

 対応機種は現在2万7000種におよび、暗号化技術が特に進んでいる米アップルのiPhoneも含まれる。しかも、アップルのiCloudをはじめとした各種のクラウドサービスのロックも解除して、大量のデータを引き出せるのだ。

 米FBI(連邦捜査局)は16年、テロ事件容疑者が持っていたiPhoneのロック解除をアップルに依頼した。ところがアップルは依頼を拒否し、両者は激しく対立した。あるセキュリティー関係者は、「業を煮やしたFBIが協力を求めたのが、セレブライトだとされている」と語る。

 セレブライトはその技術の中身を頑として語らないが、アップルがOS(基本ソフト)更新によりセキュリティーを強化するたびにセレブライトも技術を進化させている。現在は昨年秋にリリースされた「iOS11」までロック解除できるようだ。

 セレブライトの創業は1999年。元々は携帯電話の買い替え時のデータ移行に使う機器を開発していた。2007年に日本のサン電子に買収された後、09年にフォレンジック機器に本格参入した。乱用を防ぐため、フォレンジックツールの販売先は原則、各国の捜査機関に限定しているが、これまでの販売実績は世界で6万台以上。日本国内だけでも1200台以上が利用されている。売上高は約150億円に上る。

 イスラエルは、企業と国防軍の距離が近い。優秀な若者は高校卒業後の徴兵期間で諜報部隊などに配属され、サイバー戦争の最前線に立つ。そこで得た技術と人脈を基にスタートアップを立ち上げ、軍のテロ対策などに協力していく。

 ウェブ上のデータ分析を手がけるボヤージャーラボもそんな企業の1つだ。立ち上げたのは諜報機関出身のアビィ・コレンブラム氏。SNS上の匿名アカウント、俗にいう「裏アカ」を見つけられる技術が売りだ。