自分は前さばきがうまい

 「元ボクサー」というプロフィールから、多くの人は安藤氏に対し「猪突猛進」のイメージを持っているかもしれないが、よく知る人の多くは、大事に挑む前の「段取り能力の高さ」を指摘する。同世代の建築家・石山修武氏は、若い頃、安藤氏自身がこんな言葉を口にするのを聞いた。

「自分は前さばきがうまい」

石山修武(いしやま・おさむ)
1944年生まれ。68年に早稲田大学大学院修了後、同級生3人とダムダンを創設(後にダムダン空間工作所と改称)。88~2014年早稲田大学理工学部建築学科教授。14年STUDIO GAYA設立

 ここでいう「前さばき」とは、物事を順調に進めるための下準備という意味だ。特に、建築設計者が苦手としがちな「お金の工面」について常に真剣に考えていたと石山氏は振り返る。

 「そろばん勘定に長けている。私は彼に設計料の取り方のアドバイスを受けたことが何度かあるが、そんなことを(私に)教える建築家は彼だけだ」

 石山氏はこうも言う。「日本建築の伝統の中心は関西にある。それは請け負いの歴史であり、そろばん勘定できるのが棟梁だ。竹中藤兵衛正高や清水喜助をはじめ、そうした棟梁がいたから竹中工務店や清水建設が生まれた」。前さばきがうまいことは、「大工棟梁に欠かせない気質で、私が彼を日本建築の深い継承者と見るゆえんだ」