建築家・安藤忠雄氏の関係者50人のインタビューの中から、仕事や社会活動に役立ちそうな安藤氏の言葉をいくつかのテーマで紹介する本コラム。第3回のテーマは、大仕事に挑む前の「段取り」について。

安藤氏は“手紙魔”として知られる。安藤氏と面識のある人で、折々に手書きの手紙をもらっている人は多いようだ。筆者もたまに手紙をいただく。短い文章とはいえ、多忙な安藤氏から手書きの手紙が届けば、うれしくないわけがない。安藤氏のネットワークづくりに、手紙が果たしている役割はとても大きいと思われる。

出江寛建築事務所代表。1931年生まれ。57年立命館大学土木工学科卒業。51~59年京都大学施設部。59年に竹中工務店入社。同社在籍時に安藤氏と知り合う。76年に同社を退職し、出江寛建築事務所設立(写真:日経アーキテクチュア)
この「手紙を書く」という習慣は、安藤氏が今ほど有名になる前から始まっていたようだ。安藤氏の古い友人である建築家の出江寛氏は、若い頃、安藤氏のこんな言葉を海外の旅先で耳にした。
「海外に来る前に日本で書いてきた」
出江氏は1976年に勤めていた竹中工務店を辞めて独立。安藤氏とインドをはじめ、海外の多くの国に建築の視察旅行に行った。出江氏は当時をこう振り返る。
「彼が偉いのは、旅先から、友人や建て主にいつも尋常ではない枚数のはがきを出していたこと。現地の郵便局で、スタンプをぽんぽんと押していた。『いつそんな枚数を書いたんだ』と聞けば、『海外に来る前に日本で書いてきた』と。受け取った人たちは、海外でわざわざ時間を潰して書いてくれたんだと思うだろうけれど、実はそうではない。そういうところは、さすがだと思った」
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