
豊田氏はこう振り返る。「それまでは自社(鹿島)や大手設計事務所が設計した建物を担当することが多かった。施工は図面に忠実につくることが大事と考え、いかに品質を保つかに注力していた」
そんな豊田氏だが、「自分の手で模型をつくれと言われた理由が分からないままつくってみると、『空間を意識しなさい』という意味が込められていることに気付いた。それまでは建築の施工とは床、壁、天井をつくることと捉えていたが、床や壁、天井は空間を生み出すための『手段』なのだと実感した」
模型をつくって空間の意図を確認することは、安藤氏自身の建築の学び方でもある。大阪の安藤事務所の4階には、白い模型写真がずらりと並んでいる。よく見ると安藤氏が設計した建築ではない。安藤氏が気になった建築の模型をスタッフにつくらせているのだ。

豊田氏はベネッセハウスミュージアムを担当した後、現場所長となってベネッセアートサイト直島の建築施工を担当していく。安藤氏の信頼を得た豊田氏は、最終的にはミュージアムから「李禹煥美術館」(2010年)まで合計6つの安藤建築を手掛けた。

20代はとにかく経験を買え

安藤氏の学び方について、同世代の建築家である石山修武氏はこんなエピソードを明かす。
お互いが若かったころ、石山氏が初めて安藤事務所を訪れると、米国の画家ジャスパー・ジョーンズの絵が事務所の壁に飾ってあった。羽振りがいいなと思い、「これは本物か」と聞くと、安藤氏は「そや」と答えたが、すぐに真実を明かした。
「自分が描いた」
気になるものは、とにかくまねてみる。石山氏は、二川幸夫氏(雑誌「GA」創刊者)の生前の言葉を借りて、こう言う。
「安藤は建築の寸法などを図面からではなく、すべて実物を目で見て、手で触って、つまり身体で習得し、自らの血肉にしたのではないか」
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