「司馬遼太郎といえば本やね」

上村洋行(うえむら・ようこう)
司馬遼太郎記念館館長。1943年、大阪府東大阪市生まれ。同志社大学法学部法律学科卒業後、67年に産経新聞社編集局入社。95年京都総局長、96年大阪本社編集局次長。96年司馬遼太郎記念財団を設立し、同常務理事に就任。2001年から同館長を兼務。2014年公益財団に移行、理事長に就任

 本といえば、記念館を建てるかどうかを迷っていた上村洋行・司馬遼太郎記念館館長の背中を押したのは、安藤氏のこんな言葉だった。

「(司馬遼太郎といえば)本やね」

 1996年、上村館長の姉の夫にあたる司馬遼太郎が他界した。「周りから『記念館を建てたらどうか』と言われても、『いやいや』と笑って断っていた。司馬遼太郎は自己顕示欲の少ない人だったから、原稿や写真などを展示するというイメージがなかったからだ」と上村館長は振り返る。

 司馬遼太郎の自宅は、書庫だけでなく玄関から書斎、廊下の両脇まで約6万点の蔵書が収納されている。「自分が生きている間はこの状態を維持できても、いつか蔵書が散逸される可能性があるのではないか。そうなると、本当に司馬遼太郎という存在が消えてしまいそうな気がした」(上村館長)

 蔵書を散逸させない建物をつくりたい。ぼんやりと頭にイメージを描きながら向かったのが、安藤事務所だった。まだ蔵書の説明もしていないのに、会うと安藤氏はいきなり前述の言葉を口にした。「本やね」

 それを聞いた上村館長は、「その瞬間に、この人に設計を頼むのが一番いいと思った」と言う。

司馬遼太郎記念館の展示室。司馬氏の蔵書と同じ本を約2万点集めて並べた(写真:吉田 誠)

 2001年に開館した記念館に入ると、外観からは予想できない高さ11mの吹き抜け空間が広がる。壁面には司馬氏の蔵書約2万冊がぎっしりと並び、訪れる人を圧倒する。薄暗い書棚に、白いステンドグラスから樹木の緑を通した光が差し込む。

 「白いステンドグラス」を提案するときにも、安藤氏は胸に残る言葉を口にした。このステンドグラスは、通常のものと違って個々のガラスに色の違いはないが、大きさや材質が皆異なる。

「ガラスは日本に住む人々を表していて、1億の人が全て違うようにガラスも1枚1枚が全て違う。そこから差し込む日の光は、司馬さんの希望の光だ」

記念館のステンドグラス(写真:吉田 誠)

 当事者でなくともグッとくる言葉の数々。なぜ安藤氏の口からはそうしたフレーズがよどみなく出てくるのか。次回からは、いくつかの方向性に分類して安藤氏の言葉を研究してみよう。

安藤忠雄氏の関連トークイベント

(1)安藤忠雄展関連企画 講演会「安藤番編集者、大いに語る!BRUTUS×日経アーキテクチュア」

  • 2017年11月17日(金)午後5時~午後6時30分(開場は午後4時30分)
  • 講師:西田善太(BRUTUS編集長)、宮沢洋(日経アーキテクチュア編集長)
  • 場所:国立新美術館(東京都港区六本木7-22-2)・3階講堂
  • 定員:260人
  • 参加費:無料(当日先着順)
  • 主催:安藤忠雄建築展実行委員会

(2)安藤忠雄展ギャラリートーク「安藤忠雄×磯達雄×宮沢洋」

  • 2017年11月24日(金)午後3時~午後3時30分
  • 講師:安藤忠雄、磯達雄(建築ジャーナリスト)、宮沢洋(日経アーキテクチュア編集長)
  • 会場:国立新美術館(東京都港区六本木7-22-2)・安藤忠雄展会場(企画展示室IE)内の「直島」の展示周辺
    ※展示室に入るには当日の観覧券が必要
  • 定員:見える範囲
  • 内容:大阪・安藤忠雄事務所(大淀のアトリエ)の改造の歴史について、安藤氏本人に聞く(変更の可能性あり)
  • 主催:安藤忠雄建築展実行委員会

 建築専門誌「日経アーキテクチュア」は11月20日に、書籍『安藤忠雄の奇跡 50の建築×50の証言』を発刊する。安藤氏について詳しく知りたくなった方はぜひご予約ください。

編者:日経アーキテクチュア
出版:日経BP社
価格:2916円(税込み)

厳選した「50の建築」と、独自取材による「50の証言」を通じて、安藤忠雄氏の約50年に及ぶ活動と人物像を浮き彫りにする。大きな反響を呼んだ日経アーキテクチュア誌・安藤忠雄特集でのロングインタビューも収録。数ある関連書籍のなかでも「決定版」といえる1冊。