「ここで飲んだコーヒーを忘れない」

 人によって、胸に刺さる殺し文句が違う──。ほかの2人の場合を紹介しよう。

堀安規良(ほり・あきら)
北菓楼代表取締役社長。1953年北海道砂川市生まれ。菓子店「北菓楼」の代表取締役。「北菓楼札幌本館」(2016年)のデザインを安藤氏に依頼し、それ以来の付き合い(写真:北菓楼)

 2016年に安藤氏のデザインで札幌本館を開業した北菓楼。堀安規良社長の心を動かしたのはこんな言葉だ。

「堀さん、コーヒーはどこでも飲めるんだ。ここで飲んだコーヒーを一生忘れないような場所にしよう」

 開拓おかきやバウムクーヘンで知られる北菓楼。札幌市内初となる路面店は、既存の北海道立文書館別館の外壁の一部を残して、店舗に建て替えたものだ。その2階にはゆったりとしたカフェコーナーがある。

既存の公立図書館の外壁を保存した(写真:日経アーキテクチュア)

 安藤氏の言葉は、堀社長が大坂の安藤事務所に依頼に行ったときのものだ。安藤氏は、「図書館だった建物の中にもう1つ図書館をつくってはどうか」と提案。続けて安藤氏が口にした「ここで飲んだコーヒーを一生忘れないような場所に」という言葉に心を動かされた堀社長は、すっかり安藤氏と意気投合。2層分の高さのある東西の壁を本棚で埋め尽くしたカフェが生まれた。

2階のカフェ。東西は書棚の壁。上部には、直径100㎜の細い柱でクロスボールト状の白い天井を浮かせた(写真:日経アーキテクチュア)
書棚には安藤忠雄コーナーもある(写真:日経アーキテクチュア)