2016年のリオデジャネイロ五輪で全7階級でメダルを獲得し、復活と躍進を遂げた柔道男子日本代表。これには科学的なトレーニングによるフィジカル強化に加え、疲労を素早く回復させて、次の日も効率的な練習を繰り返すことができるようになったことも大きい。そこで、井上康生監督のもと、総務コーチとしてトレーニングプログラムの組み立てや疲労回復メニューの指導に当たった日本体育大学准教授の岡田隆氏に、ビジネスパーソンが仕事やオフタイムの運動で感じる疲れの回復にも役立つ“日本代表式ストレッチ”を教えてもらった。
トレーニングや練習を行うと、大きな力を出した筋肉には小さな損傷が起こり、エネルギー代謝によって作り出された代謝物が残る。これらが疲労を感じる主な原因だ。できるだけ早く回復させないと、筋肉痛が長引いたりして、次の練習が効率的にできないことになる。また、回復しきらないうちに新たな負荷がかかることで、筋肉の損傷が重なって大きなケガにつながることにもなりかねない。
「練習や筋トレで大きな力を出した後は、以前より筋肉が短くなったままの状態になります。すると、血管が圧迫されて血液の流れが悪くなり、老廃物の排出が遅くなる可能性があります。また、損傷を起こした筋肉を補修するために必要な、たんぱく質を中心とした栄養の補給も滞るかもしれません。それが選手たちのパフォーマンスを落とす原因となるのです」
こう語るのは柔道男子日本代表の総務コーチを務める、日本体育大学の岡田隆准教授。疲労回復を促すには、筋肉が何度も強く収縮し硬くなって阻害された血流を、いかに早く元に戻すかが大切ということだ。
縮んだままの筋肉が疲労につながる
「シンプルに考えれば分かることですが、筋肉が収縮して固まっているのですから、伸ばしてあげるストレッチが最も適した方法です。意外に思われるかもしれませんが、一流アスリートの中にも、練習前の準備運動は念入りに行っても、練習後のリカバリーやケアをおろそかにする人が結構いるのです。選手たちには、それがパフォーマンスを落とし、けがの原因になることを伝え、練習後のケアをしっかりするように言いました」
これは、一般のスポーツ愛好家も陥りがちなミスだ。例えば久しぶりにジョギングなどを行う時、走り出す前にはストレッチを行うのに、終わってしまえばそのままシャワー、そしてビール…というパターンになる人が多いだろう。すると、翌日からは筋肉痛が続くということになってしまうのだ。
選手たちも同じだ。キツイ練習が終わった後は、早く食事をしてリラックスしたいがために、リカバリーのためのエクササイズを軽く終わらせてしまうことが多いのだという。
「練習を始める前にはできるだけ体を動かす動的ストレッチや、以前にも紹介したHIITなどを行って体を温めることが必要です。しかし練習で動かし、力を出して収縮固定の状態になっている筋肉に対しては、ゆっくり静的ストレッチをすることで血行を回復させてあげるほうが、柔軟性を取り戻すことができて、疲労回復の役に立ちます」(岡田さん)
これはスポーツを行う時だけではない。ビジネスパーソンであれば、長時間のパソコン作業や会議、海外出張時の長時間のフライトなどによって同じ姿勢を強いられることでも、筋肉は収縮して硬くなってしまう。それが筋肉の不快感やコリとして現れ、疲れと感じるのだ。
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