2012年のロンドン五輪、柔道男子日本代表の金メダルはゼロ。柔道発祥国の面目は潰れ、男子柔道の危機とまで言われた。そして4年後のリオデジャネイロ五輪。男子73㎏級の大野将平、90㎏級のベイカー茉秋(ましゅう)の金メダルを筆頭に全7階級でメダルを獲得。復活と躍進を遂げたことは記憶に新しい。これには科学的なトレーニングに加え、体づくりに直結する栄養補給、つまり食事に関する改善や改革も大きく関わっている。そこで井上康生監督の下で食事指導に当たった管理栄養士の上村香久子氏に、ニッポン柔道の復活を支えた最新の栄養学に基づく選手たちの食事法と、ビジネスパーソンにも役に立つ食べ方を聞いた。

 合宿中の選手は、通常練習よりもハードな稽古とトレーニングの連続。肉体的にも精神的にも追い込まれていく。そんな時に息抜きになるのが、夜の飲食、つまり飲酒を伴った食事だ。

 「選手たちは本当によく飲みます。ザルどころの話じゃありませんよ、どこに入るんだろうかと思うくらい(笑)」。ロンドン五輪から女子柔道代表の栄養指導を担当し、2014年から男子代表の栄養指導も兼任する上村香久子さんはそう言って笑う。

 日中のストイックな生活に、周囲のメダルへの期待。夜はその重圧から解放されるために飲む。どこかで息抜きをしたい気持ちはよく分かる。ビジネスパーソンとて、仕事のストレスを居酒屋で発散させることがあるのだから。

ビールやワイン、日本酒といった醸造酒より、焼酎やウイスキーなどの蒸留酒のほうが太りにくい。(©PaylessImages-123RF)
ビールやワイン、日本酒といった醸造酒より、焼酎やウイスキーなどの蒸留酒のほうが太りにくい。(©PaylessImages-123RF)

体を引き締めたいなら蒸留酒を

 「選手たちの中には、私の顔を見ると“すいません、食事会で飲み過ぎました!”と話す人もいますね。まあ、正直に話してくれるだけいいんですが(笑)。私は選手たちに飲んではいけないとは言いません。でも、これは一般の方々もそうですが、体脂肪を増やさないためには、焼酎やウイスキーなどの蒸留酒を飲むようにしてもらいたいんです。ビールやワイン、日本酒といった醸造酒は、どうしても糖質が多いですから。喉ごしの爽快感が欲しければ、ウイスキーや焼酎を炭酸で割ってハイボールにするといいですね」(上村さん)

 しかし、フルーツの生搾りサワーなどは注意が必要だ。ベースが蒸留酒で、美味しくてビタミン類も補給できるといっても、飲み過ぎると果糖もたくさん取ることになる。それが太る要因のひとつにもなる。

 飲む場所が居酒屋なら、前回、上村さんが教えてくれたように、組み合わせさえ間違わなければ、体づくりに役立つ食事もできる。

 「居酒屋では、食べ合わせをうまくすれば理想の体づくり食にできるのですが、他の誘惑も多いもの。中でも注意しなければいけないのがマヨネーズです。選手の中にも何でもマヨネーズをつけたがる“マヨラー”は多いのですが、カレースプーン1杯のマヨネーズは1㎝角の牛脂と同じくらいの油脂分を含みます」(上村さん)

 ポテトサラダにかぼちゃサラダ、そして卵サラダにタルタルソース…、居酒屋では定番だ。選手たちも「サラダだから」と好んで食べることが多いという。しかし、ポテトサラダとかぼちゃサラダは脂質の多いマヨネーズとでんぷん質(糖質)の組み合わせ。卵サラダとタルタルソースは、たんぱく質が多いが、やはり大量のマヨネーズが使われている。

 唐揚げやフライにマヨネーズやタルタルソースをつけて食べると、確かにおいしい。しかしカロリーと脂質の過多になることは必至。「だし巻き卵の中心にマヨネーズが入っている店もありますよね。マヨネーズに気を付けるよう、特に体重調整中の選手には口を酸っぱくするほど言い聞かせていますが難しいですね(笑)」と上村さん。我々も気をつけたいものだ。

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