ウォール街が3大国をコントロール下に

 ユダヤ系の金融資本も米国に新天地を求めた。国境を越えた金融ネットワークを持つ彼らは、オランダのアムステルダム、ロンドンについでニューヨークへ、その活動の拠点を移していった。17世紀にオランダ領ニューアムステルダムと呼ばれたニューヨークでは、当時からユダヤ人が活動していた。オランダ時代の城壁に沿った通りは、「ウォール街」と名づけられた。

 20世紀初頭、ウォール街の有力者数名が会合を行い、自分たちの手で中央銀行を設立し、通貨ドルの発行権を握ること、これを認めさせることを条件に、次の大統領選挙で民主党のウッドロー・ウィルソンを支持することで合意した。

 このウィルソン政権こそ、初の「ウォール街政権」であり、その本質はグローバリストだった。欧州で第一次世界大戦が勃発すると、ウォール街は交戦国から大量の国債を引き受けた。米国は最大の債権国となり、ウォール街が国際金融の「首都」となった。

 債務国である英国・フランスの戦況が思わしくなくなると、ウィルソン政権は従来のアメリカ一国主義(モンロー主義)をかなぐり捨てて、参戦した。米国が「世界の警察官」になるという発想は、このウィルソン政権にはじまる。

 「世界の警察官」を実現したのは、第二次世界大戦で日本とドイツに勝利したフランクリン・ローズヴェルト民主党政権だった。米軍は史上はじめて西ドイツと日本・韓国を占領統治。次のトルーマン政権はソ連(共産主義ロシア)との冷戦を口実に米軍の駐留を恒久化した。

 第二次世界大戦と米ソ冷戦は、米国に巨大な軍需産業を出現させた。ベトナム戦争を引き起こしたジョンソン民主党政権は、その利権構造の上で権力を保持していた。前任者であるケネディの不可解な死も、この利権構造と深く関わっているようだ。レーガンとブッシュ(父)の共和党政権もジョンソン路線を引き継ぎ、軍拡競争でソ連を崩壊させた。

 クリントン民主党政権のもと、米ゴールドマン・サックスのロバート・ルービンはクリントン政権の財務長官となった。ロシアのエリツィン政権が財政破綻すると、ウォール街はIMF(国際通貨基金)の緊急融資の条件として、ロシア経済の自由化を迫った。この結果、石油・ガスなどロシアの国有財産の多くが、二束三文で外資や新興財閥に払い下げられた。中国はすでに改革開放政策に応じていた。

 このように、米・中・ロの3大国がウォール街のコントロール下に置かれていたのが90年代だった。一握りの国際金融資本が富を独占し、労働市場の自由化が進んだ結果、賃金は上がらず、貧富の格差が拡大していった。

米国の真の支配者をめぐる争い

 2000年代、行きすぎたグローバリズムに対する揺り戻しがナショナリズムの復権という形で噴出した。その先頭を切ったのがロシアのプーチン政権で、新興財閥の取りつぶしや、資源の再国有化を断行して国民の喝采を浴びた。

 次が欧州諸国で、「シリア難民」という名の外国人労働者の大量流入に対する反動から、イギリスはEU(欧州連合)離脱を決定、フランスの国民戦線やドイツのための選択(AfD)など移民規制を訴える政党が軒並み躍進した。

 そして米国では、メキシコからの不法移民を食い止め、安すぎる外国製品に高関税をかけると吠えたトランプが勝利したのである。

 ウィルソン以来、米国政治の主導権を握ってきたウォール街勢力は、1世紀ぶりにコントロール不能な政権の出現を見て驚愕し、これを叩き潰そうと躍起になってきた。大手メディアを通じた政権バッシングは、20世紀までは有効だった。しかし誰でもネットで情報発信ができるようになったいま、トランプはツイッターという武器を手にし、情報操作を繰り返すメディアに対しては「フェイク・ニュース(嘘報道)!」と痛罵し、大衆は溜飲を下げる。

 トランプはなお敗北していない。米国の真の支配者はだれか、をめぐる戦いは、まだ始まったばかりである。(敬称略)

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