
米中間選挙は、トランプ共和党と「反トランプ」民主党との接戦に終わった。外交上の決定権を持つ上院では共和党が勝利したが、下院は僅差で民主党が制した。下院の選挙区別得票率を見れば、東海岸とカリフォルニアが野党民主党の、中西部が与党共和党の票田であることがわかる。このことの意味については、あとで触れる。
2016年の大統領選以来、大手メディアは総力をあげて猛烈な「トランプ叩き」を展開してきた。ロシアの情報機関が大統領選でトランプ陣営を支援したという「ロシア・ゲート」疑惑にはじまり、トランプ個人の女性スキャンダルから、トランプが指名した最高裁判事候補の高校時代のスキャンダル暴露まで、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」の図式である。
米国は完全に2つに分裂している。この分裂は1990年代からはじまり、ブッシュ・ジュニア時代に顕著になった。オバマは国民の統合(ユナイト)を呼びかけて当選したが、その巧みな演出にもかかわらず、対立の根深さを覆い隠すことはできなかった。トランプがこの対立を激化させたという見方は誤りである。対立の根深さが、トランプを大統領にまで押し上げたのだ。
トランプはリンカーン以来の共和党本流!?
19世紀の米国も2つに分裂しており、ついには血で血を洗う内戦に突入した。
「南北戦争」というのは日本語で、英語ではthe Civil War 「あの内戦」と呼ぶのだが、これこそ米国が体験した最大の戦争であった。犠牲者数は南北合わせて30万人。これは、日本・ドイツと戦った第二次世界大戦での米兵の犠牲者15万人の倍である。
大統領エイブラハム・リンカーン率いる北軍は、南部連合の首都リッチモンドを焼き払い、南部人が選挙で選んだ大統領ジェファソン・ディヴィスを反逆罪で逮捕、投獄した。
「敗戦国」となった南部は12年間にわたって北部軍の軍政下におかれ、「近代化」が強制された。同時期の戊辰戦争で「賊軍」とされた東北諸藩が受けたような精神的な傷跡が、南部諸州の人々(ただし白人のみ)にはいまも残っている。
南北戦争の原因は、保護貿易主義と奴隷制廃止を訴える北部の産業界と、自由貿易主義と奴隷制維持を訴える南部綿花地帯の大地主(プランター)との対立だった。南部人にとって、大量の綿花を買ってくれる工業国・英国との自由貿易は死活問題。奴隷という形で、外国人労働力が自由に入ってくることも歓迎していた。この南部人が中心になって結成した政党が「民主党」である。当時の民主党は、奴隷制を擁護する地主の政党だった。
一方、弱い産業は、常に保護主義を求める。産業革命を始めたばかりの北部人は、英国綿製品の大量流入が自分たちの弱々しい産業にとってダメージとなることを知っていた。この北部人が中心となって結成した政党が「共和党」であり、共和党初の大統領に当選したのがリンカーンである。国境線を高くして米国を守ろうとする「保護貿易主義者」という点で、トランプはまさにリンカーン以来の共和党本流といえる。
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