今年15回目を迎える「日本イノベーター大賞」。受賞者の素顔を紹介する連載最終回は、大賞の市川和弘氏。セイコーエプソンのエンジニアとして、オフィス内で使用済みの事務用紙を再生させる「ペーパーラボ」を開発した。年内に価格を発表し、発売を開始する。

紙のリサイクルに不可欠だった水を使わず、機械の中で繊維に戻し、インクの色を抜き、再び紙に成型する。驚きの技術は、いかにして生まれたのか。(文中敬称略)

市川和弘(いちかわ・かずひろ) 1963年生まれ。82年に地元である長野県の高木工業(現在のセイコーエプソン)に入社。新規事業開発に従事し、83年からは諏訪精工舎で産業用ロボットの開発に携わる。94年からセイコーエプソン研究開発本部画像技術研究室でレーザープリンターの研究開発を経て、2011年からペーパーラボの開発に着手。2016年から現職。(写真:都築雅人)

 好奇心が旺盛な少年だった。実家は機織りを手掛ける自営業。縦糸と横糸が重なって織物ができていくさまを飽きずにずっと凝視していた。やがて少年の目線は機織り機に向かう。機械を触り仕組みを知り、モノ作りの楽しさに目覚めた。

 遊び道具はほとんど自作。自信作は野球の練習用に作った、ボールを自動で投げる道具。10代前半にして、既にモノ作りの才能を開花させていた。

 それから約40年後、モノ作り少年だった市川和弘は今年、セイコーエプソンのエンジニアとして世間を驚愕させる機械を世に送り出す。使用済みの紙を投入するとその場で再生する「ペーパーラボ」だ。昨年12月に発表すると、その巨大なコピー機のような機械は、即座に世間の耳目を集めた。

 その理由は、紙を再生する方法にある。通常、紙をリサイクルする場合、専門業者が使用済みの紙を回収し、それを1カ所に集めて水に溶かして繊維に戻し、再生紙に成型する。ところが、ペーパーラボは水を一切使わない。紙の繊維を振動で細かく砕いて、線状の繊維に戻す。しかも、インクなどの色素を完全に抜き、結合剤を混ぜて圧力をかけて再び紙に成型する。その工程を、オフィスにも設置できる程度の大きさの機械の中で実現してしまった。