突然、経営者がいなくなった

中川さんは外から見ると、老舗メーカーをデザインの力で再生させているイメージがありますが、そうではないと。

中川:全く違います。これは構造的な問題なんです。工芸を取り巻く環境は以前まで、工芸メーカー→産地問屋→流通問屋→百貨店、というチェーンで構成されていました。工芸メーカーの経営をしていたのは産地問屋です。メーカーは、産地問屋の一つの製造部門だったわけです。

 産地問屋からの注文がFAXで届いて、その通りの納期と品質が担保できていれば自動的にお金が入ってきた。その問屋が潰れて、FAXが届かなくなった。メーカーは商品をどこで売っているかも分からなくて右往左往する。つまり、突然、産地問屋という「経営者」がいなくなった。それがこの30年で起こったことです。

 つまり、デザイナーやプロデューサーだけがこの世界に参入しても、全く効果がありません。私はよく自分の仕事を家庭教師に例えるのですが、まずは九九と方程式をきちんと教える。つまり、予算表の作り方と企画の立て方、年間の生産量の組み方などの基礎を教えるんです。これで黒字化するまでは達成できます。実際に、経営書を数冊読ませて、感想文を書かせるようなこともやります。

かなりドラスティックにやると。

中川:彼らからするとドラスティックなのかもしれません。でも、商売をやろうと思ったら当たり前の話です。それをできていなかった工芸メーカーが多いということでしょう。

 商品企画の立て方などを細かいフローに分類し、系統立てて教えます。我々のやり方は、まず一つの商品を生むまでは横で付きっきりでコンサルティングします。クリエイティビティーやセンスは必要ありません。当たり前のことを当たり前に進めれば、売れる商品を生むことができます。そこで覚えてもらって、次の商品からは関わらない。

工芸にとって武器である職人の技術などは重要な価値なのでは。

中川:技術が優れているから勝てるわけでありません。有利ではありますが。大切なのは、その工芸品が持つ物語の何をどう伝えるか。そこで決まります。

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