ベンチャーを分離することで研究の自由を確保

ペプチドリームは、こうした菅さんの研究成果をベースに創業したわけですが、研究と事業は、どのような関係を築いているのですか。

:私の研究室はまだ解決できていない課題に取り組んでいます。一方、ペプチドリームは、ビジネスにできるところをやっていく。実際に薬を作るには、製薬企業と組んで、製薬企業のリースを使った方がはるかに効率がいいですから。事業をやる以上、効率性は非常に大切なんですね。やはりバイオベンチャーといえども、黒字でやっていけないとものすごく苦しいですよね。一般的なバイオベンチャーでは、100億円くらい使っても、結局、当たらないというのは当然あるわけです。そのお金は、市場から集めてきたり、税金だったりするわけですよね。

 一方ペプチドリームは、自分たちの技術を使って、自分たちで薬を発見し、薬を製薬会社に提供していく。最初から共同研究をやることで、ビジネスとして黒字を積み上げていっています。

 そもそも、私がペプチドリームを作った理由の1つは、自分たちの技術を本当に社会に役に立つように実装するには、ベンチャーを作ることが一番適した環境であると思ったからです。また、それと同時に、自分のアカデミックの研究を完全に守れるという理由も大きかった。

自分の研究を守る、とはどういうことですか。

:製薬企業と一緒に研究するということは、彼らの言うことを聞かなければいけないですよね。それでは、アカデミックとしての自由を守れないんですよ。私が大学の先生と組んでやる分には、向こうが色々と頼んできても、面白いね、と思ったときだけ一緒に組めばいい。そこにはなんのしがらみなく、自由です。しかし、企業とやると、もう自由じゃなくなります。

 僕は最初、自分の研究がこんなに大きなビジネスになり得るとは思っていませんでした。なんとなくのイメージはあってもね。最初、東京大学TLOからビジネスにする誘いがあったのですが、条件として社長を見つけてくれと。社長が素晴らしくないと、うまくいかないから。そこで、出会ったのが窪田(規一社長)さんです。

 ようするに、自分の研究から事業を完全に切り離しました。これは、普通の大学の先生がすることではないかもしれませんね。どうしてかと言うと、普通は企業と産学連携すると、そこからお金が入ってくる。つまり、研究費が増えるわけです。しかし、それでは研究の自由は失うんです。少なくとも、その関係に関しては、自由は失います。

 産学連携の難しさはそこにあります。今後、大学はどういうシステムをつくって産業界との連携を強化していくべきか、議論が必要だと思います。基本的にはオープンイノベーション的な発想になるのでしょうが、大学の先生が複数の企業とやりだすと、ぐちゃぐちゃになってしまうと思いますね。僕は、そういう例をたくさん見てきました。

 重要なのは、自分の基礎研究と、イノベーション研究というか開発研究を、どのように分離するかという視点だと思います。僕は、ペプチドリームでその1つのモデルを示したつもりなんです。自分はペプチドリームと一線を画して、そこから研究費は一切、もらわない。

ペプチドリームから研究費を貰っていないのですか。

:もらっていません。0円です。みんな、もらっていると思っているでしょうけど(笑)。それをやると自由を失うし、利益相反が生まれる。もらわないし、こちらからもあげない。

社外取締役として、株主として関わっているだけ。

:そうです。私が獲得した研究費をペプチドリームに回すこともしないし、逆にもらうこともしません。海外でも、完全に分離してしまうのが一般的ですよね。スピンオフして、その会社のファウンダーとしてお金をもらうけれども、研究室とは完全に分離する。

 なぜ、分離するかというと、ベンチャーキャピタルからお金がどーんと入ってくるので、そのお金の回しかたを間違えると、利益相反などの問題が起きてしまいかねない。ペプチドリームもベンチャーキャピタルからお金を入れましたが、ものすごく少ない額ですし、それに依存して会社を運営していたわけではないんですね。ちょっとだけベンチャーキャピタルのお金を東京大学エッジキャピタル(UTEC)から入れましたが、それは「東大発」という冠をつけるためで、必ずしもそのお金が必要だったわけではありません。その頃には、既に顧客が付いていましたから。

ペプチドリームのプラットフォームを使って開発した薬は、いつ頃から世の中に出そうですか。

:それははっきり分からないですね。今、臨床段階に1つ上がっていますが、これだけ多くの製薬会社と共同研究をしているので、増えていくと思います。1つか2つの薬を一生懸命実現しようとしている、他のバイオベンチャーとはビジネスモデルが異なりますから。製薬会社における臨床にあげるかどうかの判断は、本当に厳しい。ちゃんと道筋が見えていなければ、ゴーサインを出しません。バイオベンチャーの中には、結構無理をするところもありますが、ペプチドリームの場合は既存の製薬会社とやっているので、彼らがゴーと決めたら、相当な確率で実現していくと思います。

研究成果を社会に還元するためには、製薬会社と一緒にやる方が確実性が高いというわけですね。

:そうです。それが近道です。ペプチドリームも自社開発しているものもありますが、早い段階で外に出してしまうと思いますよ。

 実際に、ペプチドリームのプラットフォームを使って開発した薬が世の中に出て行くと、抗体がそうであったように、特殊ペプチドを使って薬を開発するということが、今後5~10年のうちに広がって行く可能性は十分に高いと思います。

その基盤を作ったのが、ペプチドリームだと。

:はい。先ほどもお話ししたように、ペプチドリームが持っているような創薬のフレキシビリティーがある会社は、ほとんどないのが現状です。イノベーションとは、競合がまねようとすら思わない技術であるべきだと思います。絶対にまねできない、まねされないイノベーションを起こすには、常に人と違うことをやることを恐れず、挑んでいくこと必要があります。ペプチドリームは、まさにその努力のたまものです。

趣味はギターを弾くことだと聞きました。

:13歳くらいから始めました。今はライブを年1回くらいしかできていません。忙しいので。それでも、個人的に練習は毎日やっていますし、バンドでも練習は欠かしません。

 最初はロックでしたが、最近はマイルス・デイヴィスとか、ブルースとか。フュージョン的な感じでしょうか。ロックではないですが、ロックなフレーバーは入れ続けています(笑)。