今年、15回目を迎える「日本イノベーター大賞」(主催:日経BP社、協賛:第一三共)の受賞者が決定した。日本イノベーター大賞は、日本の産業界で活躍する独創的な人材にスポットを当てることにより、日本に活力を与えようと2002年に創設。今年の受賞者は、大企業のエンジニアからベンチャーや老舗の経営者、大学教授、日米のトップクリエーターと、多彩な顔ぶれとなった。

大賞  市川和弘氏:セイコーエプソン ペーパーラボ事業推進プロジェクト部長
「事務用紙をオフィス内で再生する『ペーパーラボ』を開発」
優秀賞  阪根信一氏:セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ 社長
「洗濯物を自動で折りたたむ『ランドロイド』を開発」
優秀賞  中川淳氏:中川政七商店 社長
「伝統工芸品をリデザインするなどして、地場産業を活性化」
特別賞  菅裕明氏:東京大学大学院 生物有機化学教室 教授/ペプチドリーム 社外取締役
「独自開発の『特殊ペプチド』で創薬のあり方を大きく変革」
ソフトパワー賞(共同受賞)  石原恒和氏 ポケモン 社長/ジョン・ハンケ氏:米ナイアンティックCEO
「スマホアプリ『ポケモンGO』を共同開発」

受賞者の素顔を紹介する連載の第2回は、特別賞を受賞した、ペプチドリーム社外取締役で東京大学大学院 理学系研究科化学専攻 生物有機化学教室 教授の菅裕明氏。菅氏は、特殊な構造を持つアミノ酸を組み込んだ化合物「特殊ペプチド」を効率的に作るだけではなく、1兆種類もの候補の中から薬になりそうなものを素早く見つけ出せる技術を確立。その技術をベースにペプチドリームを創業し、創薬のあり方を大きく変えた。

<表彰式に読者の皆様を無料でご招待>
表彰式は11月16日(水)午後5時から東京都港区の「グランドプリンスホテル高輪」で開催いたします。観覧ご希望の方は、以下のURLからご応募いただけます。定員(200人)に達し次第、締め切らせていただきます。

http://business.nikkeibp.co.jp/innovators/

菅 裕明(すが・ひろあき)
1963年生まれ。89年岡山大学大学院卒業後、米マサチューセッツ工科大学、米ニューヨーク州立バッファロー大学などを経て2003年から東京大学先端科学技術研究センター准教授、2005年同センター教授、2006年ペプチドリーム創業。2010年東京大学大学院理学研究科化学専攻生物有機化学教室教授(写真:竹井俊晴)

まず、菅さんが開発した技術をベースに創業されたペプチドリームは、2013年の上場以来、黒字が続いていて周囲の評価も高い。赤字に苦しむバイオベンチャーの中で、珍しい存在です。その経営を支えている「特殊ペプチドを使った創薬プラットフォーム」とは、そもそも、どういったものなのでしょうか。

:「特殊ペプチド」とは、完璧に私が作った造語です。まず「ペプチド」は、複数のアミノ酸が含まれた化合物のこと。私たち人間が食べる物には、タンパク質など色々なものが入っていて、それが分解されてアミノ酸になって体に使われます。しかし、薬にしようと思ったら、実は分解されると困るんです。

 そのため、昔は薬に使うアミノ酸は「異常アミノ酸」と呼ばれたりしました。天然物なんだけれども、体内で分解されてしまう一般のアミノ酸ではないという意味です。分解されずに、抗生物質的な役割をしている場合が多いアミノ酸です。

 ただ、この「異常アミノ酸」を自然の中から見つけ出してくるのは、なかなか難しい。天然物の中には「毒」になるものと「薬」になるものがあるのですが、薬になるのは毒になるかならないかのギリギリのラインにあるものなんです。天然物の中から、そういうものを見つけてくるのは、一種の偶然に頼るようなもので、しかもそれを実際に薬にしていくには、非常に時間もコストもかかる。今の時代、製薬会社はそのような余裕がありません。

 そこで、天然物の構造をまねたペプチドを作りました。それが、「特殊ペプチド」です。「異常」と呼ぶと、なんだか悪い物質みたいですから、薬につかうには不適切かなと。だから「特殊」と名付けました。

 天然物の中から病気に効くものを見つけてくるのは効率が悪い。しかも最近は、薬が標的とする病気の原因がすごくはっきりしてきている。バイオロジー(生物学)が進んだので、昔のように標的タンパク質がわからなくても効けばいいというスクリーニングの仕方は、もう時代的に廃れました。

 薬を許可する当局も、昔は効けばよかったのですが、最近はなぜ効くのかを聞いてくる。そうしないと、副作用が分からない。だから今、製薬企業にとっては、ターゲットをしっかり決めた創薬というのが必要不可欠になってきている。

 そうした中で、天然物をスクリーニングして、ターゲットを決めたところに当てていくのがなかなか難しいわけです。不可能ではないですが、ヒットが出にくいんですね。そこに、我々の技術が注目されている背景があるんです。

 我々は、天然物に似たような構造を持ち、特殊なアミノ酸が入っているペプチドを作り、それを使って薬の探索をするプラットフォーム技術を確立ました。15年くらいの基礎研究の積み重ねがあって、2006年に薬の探索を実践するペプチドリームを立ち上げたのです。

 私たちの研究室は、新しい技術を開発し、それを試す。もしくは、これまであまり薬の標的として認知されていない標的に試して、薬の候補みたいなものを探してきて、研究を進める。

 一方、ペプチドリームは、薬の標的は分かっているけれども、その薬が見つからないという製薬企業に対して、我々の技術を提供します。標的は分かっていて、それに対する阻害剤なり何なりが見つかれば薬になると分かっている。だけど、それが見つからないという製薬企業に、我々のプラットフォームを使ってもらい、特殊ペプチドの中から薬になりえる化合物を見つけ出してもらう。

 今、抗体を使った創薬が世界を席巻していますが、抗体というのはやっぱり高いんですよ。そのことを考えると、もっと安価に、同じようなスピードで薬の開発ができれば、新しい第三のシーズとして普及する可能性がある。抗体のようなものを、しかもかなり低分子寄りの化合物で代用できれば、これまでの創薬のあり方をがらりと変える可能性がある。それが、特殊ペプチドだというわけです。

 ペプチドリームは海外10社、国内6社の製薬企業が顧客になっています。ありきたりの技術だったら、そこまで広がらないですよね。それは世界的に見ても競合する技術が見つからないか、あったとしても、ペプチドリームの技術に比べたら、全然ヒット率が低い。そういう状況をみんな認知したので、じゃあ、この分野で一緒にやるとしたらペプチドリームだ、という感じになってきました。