新規事業を内製する意味があるか

先ほど、入社して3年でもともと独立を考えていたというお話でしたが、起業家を目指すという観点では、社内の人々はどうでしたか。

山野:まず、前提としてリクルートの人たちは、魅力的な方が多いです。人間としてウェットだったり、合理的だったり様々ですが、総じて人間として魅力がある。ただ一方で、起業家として成功したい、成長したいという観点でいうと、僕のモデルケースになる方はいないという印象でしたね。ビジネスパーソンとして大活躍する人はもちろん多かったですが。

 それは、繰り返しになりますが、やはりビジネスが最適化されていく中で、当然な面はあります。例えばアイデアを考えつく人は100人いるけど、実行する人は10人で、成功するのは1人ということですよね。入社時点では起業について語っていた人も多いなという印象でしたが、結局僕も含め、周りで実際に起業に至った人間は数えるくらいだと思います。

今回のリクルートの企画にあたっては、新規事業の開発についても様々な取材を行いました。山野さんは、リクルートにおける新規事業の開発には、どのような意味があると思いますか。

山野:正直なところをお話しすると、あまりリクルートの内部で立ち上げるメリットはないと考えています。スタートアップとして事業を立ち上げて、正しいロードマップをたどって最終的に目指す会社の姿を実現できるのであれば、それは個人でやったらいいんじゃないか、というのが僕の考え方なので。

 加えて、例えばフェイスブックもそうですが、新規事業を完全に内製化しているかというと、そうではないですよね。外部から買っているケースも多い。大きな資本力のある会社が、どんどん有望なベンチャーを買っていくのは自然な話です。

リクルートも、米求人検索エンジンのインディードを買収していますね。

山野:そうですね。インディードの買収は、あれだけ大きなインパクトのある企業を買うという戦略は、もちろんいいことだと思います。それほどの規模感でなくとも、10億円ぐらいの規模で有望なスタートアップをぽんぽん買収していくというのも、リクルートとしては理にかなった戦略だと思います。

 逆に言えば、今のリクルートで、かなりの手間暇とコストをかけて新規事業の開発に力を注ぎ続けることが、本当にコスト管理やオペレーションの観点でどうかという話ですよね。我々起業家が考える新規事業がそれかと聞かれると、別にそんなことはないんじゃないかと。むしろ、それができるという点で、優秀な人材を集めるというメリットはあるかもしれないですが。

山野さん自身は、最初考えていた通りに3年間で独立したわけですが、それは大変でしたか。

山野:リクルートって、目標設定が本当に上手な会社ですし、業務にも慣れてくると、新しい仕事にも巡り合ったりしてかなり忙しいんですよ。だから、辞めないとズルズル続けてしまうという側面もあると思う。僕の場合は、飛び込むための台はしっかり自分で用意してという意識を強く持っていたから、まずは会社を辞めることから始めました。

それは、アソビューの準備みたいなところはなしに?

山野:設立準備も何もなく。初めはめちゃくちゃ苦労しましたよ(笑)。日本のGDP(国内総生産)に貢献するとか、世の中にないサービスを作るとか、漠然としたテーマだけ設定して、イメージをしっかりと固めてという流れですかね。当然、飯も食わなければなりませんから、先輩の会社を手伝うなどして収入を確保しつつ、準備をしていきました。リクルートを辞めたのが10年5月、会社を立ち上げたのが11年3月です。

その後、アソビューが急成長して、現在ではある部分で競合している。リクルート対スタートアップは、どのような関係性だと思いますか。

山野:僕が所属していた頃もそうでしたが、リクルートという会社は基本的に「強者の戦略」だと捉えています。リクルートは常にスタートアップの新しいビジネスの芽はほとんどチェックしていて、意識が高いリクルートの社員の多くはそうした動きを把握している。それに対して、リクルートの資本力を持ってどのように対処していくか、あるいはそのスタートアップをどのように活用すれば、自社の既存事業をさらに育てられるかという観点でものを考えていると思います。

 それは、我々がサービスを立ち上げた時点から意識していましたし、現在このような状況になることも予想していました。だから、どの時点でリクルートに目をつけられるかというのは、スタートアップにとっては実は大事なところなんです。あまり目をつけられないうちに隠れて急成長して、いかにポジションを築くかどうか。それは皆考えているのではないでしょうか。

それでもリクルートは怖い

対リクルートという部分では、どのような戦略を考えているのでしょうか。

山野:元も子もないですが、オペレーションそのものは、すべて真似できるものだと考えています。でも、その原点にある思想だけは真似することはできない。だから、どのように社会に対して価値を提供するかという本質こそ、競争優位性につながると信じています。僕自身もその思想は、日々深めていく努力をしています。

 その思想さえ確固としたものがあれば、個々の機能やサービスの付加価値の部分に落とし込んでも、勝ることはできる。詳細はお話しできませんが、口コミだけではない事業者の評価であったり、体験プランの選択、予約、体験、お帰りまでのトータルのユーザーエクスペリエンス(利用者経験、UX)の改善など、我々のサービスにはその思想を体現するものがあります。それを続けていくことが、結局サービスの満足度を高めて、ビジネスを育てていける。リクルートであっても追いつけない部分だと自信を持っています。

すると、リクルートは怖くないと?

山野:いやいや、めっちゃ怖いとは思っていますよ(笑)。どんなに理想像があっても、経済効率という部分では規模に勝るものはないですから。でも、期待もしているんです。我々が頑張っている新しいマーケットにリクルートが本格的に入ってきて、大々的なプロモーションも含めてニーズを広げていく。それは市場自体にとってはすごくいいことです。新しい産業の仕組みが生まれて、世の中に普及していく上で、リクルートのそうした役割は非常に重要だと思います。