調達資金は大型買収などに振り分け

 「グローバル事業を加速し、『国内の大将』ではなく『世界のリクルート』を目指す。グローバルに信頼感を得て、投資のための資金調達源を多様化させるというのが大きな目的としてあった」。牧田俊一・リクルートホールディングスIR推進室長は上場の理由をこう説明する。

 峰岸社長ら経営陣は上場で得た資金を、海外での大型買収や事業育成に振り分ける姿勢を明確にしている。16年にはオランダの人材派遣大手、USGピープルを約1885億円で買収した。人材派遣のように、既存事業で事業規模やシェアを拡大し、利益を高めていくための投資は今後も増えていくだろう。

2014年10月に株式上場を果たしたリクルートホールディングス。投資家の成長期待にどう応えるか(写真:ロイター/アフロ)

 こうした投資は、現在のリクルートの立ち位置や目指す方向性を考えれば王道ではある。ただ、これまで攻めの経営で様々な領域に「侵食」を続けてきたリクルートの企業としてのあり方が、成長力の源泉だったのも事実。加えて、これからは防戦を迫られる局面も増えていくことは間違いない。海外で通用するかどうか以前に、国内でも競争環境は一層激化しているためだ。

 直接の競合相手としては、例えば人材広告大手のマイナビがある。リクルートの「リクナビ」と激しいシェア争いを繰り広げている新卒採用の領域だけでなく、転職、アルバイトなどの関連サービスでも存在感を増している。近年は旅行宿泊予約「マイナビトラベル」や賃貸住宅情報「マイナビ賃貸」、ウエディング情報「マイナビウエディング」も強化。マイナビは非上場だが、2016年9月期の売上高は前期比18%増の1097億円、営業利益は8%増の173億円と成長している。

 さらに、現時点で直接競合しておらずとも、顧客の新たなニーズを汲み取り、脚光を浴びるプレーヤーは続々と登場している。今や7000万人超のユーザーを抱え、日本人のコミュニケーションツールとして圧倒的な存在感を誇るLINE。個人間流通のプラットフォームとして注目を集めるメルカリ(東京都港区)などがそれだ。

 LINEはコミュニケーションツールとして幅広く普及した強みを持って、音楽配信や格安スマホなど様々な領域に進出している。株式上場が予想されるメルカリについても、あるリクルートOBは「最近は、リクルートの内定を蹴ってメルカリに就職する若者も珍しくない。これまでには考えられなかったこと」と驚きを隠さない。直接的なビジネス面だけでなく、人材獲得という競争でもリクルートの優位性は薄れている。

 加えて、ネットの世界で顕著な「黒船」の日本市場への侵食もリクルートを脅かす。民泊世界最大手の米エアビーアンドビーをはじめ、新たな破壊的イノベーションを持って日本に進出する企業は後を絶たない。

 野村証券の長尾佳尚アナリストは、「リクルートにとって、ライバルに取って欲しくない戦略は大きく2つある。1つはマイナビのようにサービスの幅を広げ、リクルートの守備範囲に重なってくる『同質化戦略』。もう1つはグルメや旅行など、特定の分野に絞ってリクルートの既存事業を崩す『特化型戦略』」と指摘。「次の5年間程度を見据えて、どのように将来の収益構造を作っていくのかは、リクルートにとって大きなチャレンジだ」と分析する。

 こうした市場関係者の見方に、リクルートはどのように応えていくのか。実際、従来の産業構造を一変させるような破壊的イノベーションを生み育てていく施策にも、リクルートは依然として積極的だ。今回の企画でも取り上げた求人検索エンジン大手、米インディードはその代表格。国内ではオンライン学習サービス「スタディサプリ」も同様の役割を期待されている。

 インディードのケースでは、本誌記事でも紹介したように、日本の既存事業とのカニバリゼーションを恐れず展開を加速する方針が鮮明。足元では俳優の斎藤工さんらが出演するテレビCMなどを大量に投下、認知度の向上に努めている。スタディサプリは教育ビジネスに低価格を武器に本格参戦し、利用者獲得を進めている。